何と言ってもヘッドライナー、アンダーワールドと、特にレディオヘッドに注目が集まった今年のSUMMERSONICだったが、weezerのステージには期待していたオーディエンスも多かった様に思う。
ロック史にのこる大名盤、ビーチボーイズの'ペットサウンズ'に準えられた今年リリースのホワイトアルバム。
カリフォルニアのサーフとビーチをコンセプトにしたこのアルバムは、発売前・発売後ともにロックファン界隈を賑わせ続け、そしてその高い評価とともに、ライブへの期待は高まる一方だった。
既存も新規も唸らせる、グルーヴィーでドリーミーな、新型ながら盤石のウィーザーサウンドは、早くも今年を代表するアルバムとしてファンに暖かく認知された。
しかもサマソニのウィーザーのステージ構成は昼下がりのマリンスタジアム。
カリフォルニアの様に爽やか、には雨上がりで蒸し暑すぎるかもしれないが、陽光降り注ぐロケーションは、考えられる限り最高の条件が揃っていた。
そこでの光景は、ちょっと忘れ難い、センチメンタルでロマンティックな夏の想い出として、強く心に残る出来事となった。
ライブレポート
お天気雨の様な雨がパラパラと降る中、一つ前の星野源がハッピーなライブを終えて、いよいよウィーザーの時間。
整列入場となり、並ぶ人の多さ、多様さに、並んでいる時点で既にウィーザーの存在感を感じる。
焦れながらも高まっていく期待が心地いい。
開場のアナウンスとともに意気揚々と右腕を天に突き上げて入場し、フロントエリアに着いて辺りを見渡すとスタンドもいっぱい。みんな手にしている団扇を扇いでいてキラキラと輝いている。
アリーナエリアも行列の雰囲気を見てみると、もうすぐいっぱいに埋まりそうだ。
ふと気付くけど、外国の人が多い。人種も様々。
アーティストのワールドワイドな人気を感じられるのもフェスならでは。
ウィーザーのワールドワイドな人気は周知の事実なのだが、来ている人々の多様性がやはり目につき、ここにいる全員が少なからず自分と同じ思いで、ひと夏の思い出を共に過ごす事に、ちょっと圧倒される。
雨も止んで太陽が顔を出す中、やや定刻から遅れて、ステージ両サイドに設置されたの特大ビジョンが告知から切り替わり、weezerの4人が映し出され大歓声が起こる。
いよいよステージ上に4人が姿を現わすと、オーディエンスのボルテージは更に上がり、両手を挙げてWのマークを作ってweezerを迎え入れる。
穏やかなリラックスした笑顔を見せる4人。気負いもなく、ベテランの雰囲気すら漂わせる、頼り甲斐のある姿。
いよいよライブスタート。
いきなり流れてきたのはホワイトアルバムより"California kids"のSE。
ドリーミーでビーチらしい浮遊感に包まれて歓声が上がるが、リバースが弾きだしたのは"Hash Pipe"。
フワフワとしかけた空間を、瞬く間に硬質でヘヴィーなサウンドが支配し、強烈なギターの重力を感じながらオーディエンスに首を振らせる。
ホワイトアルバムの前作’Everything Will Be Alright In The End’で、ウィーザー自身がロックバンドとしての立ち位置を再認識し、最前線に立ち続ける事を決意表明した。
その決意を思い出させるかの様に、自らの楽曲の中でも随一のロックから入ってきた。
リバースは淡々と、しかし真摯に真っ直ぐと前を見続けながら歌い上げる。
泣き虫の残影は感じられない、一人前のロックシンガーの姿だった。
骨太のロックサウンドで会場の温度をさらに上げたウィーザーは満足気に眺めながら、2曲目"Pork And Beans"で真骨頂のパワーポップをかき鳴らす。
力強さとは対照的な、中年男のやるせなさ・情けなさを今にも泣きそうな声で、しかし軽快に演奏する。
Hash Pipeの熱気を吹き飛ばすように、爽やかなポップネスがマリンの風通しを良くしていく。
3曲目"(If You're Wondering If I Want To You Do)I Want You To"のご機嫌なイントロと共に、極めてハッピーなウィーザー版パーティーナンバーが手拍子を誘う。
小気味いいギターのリズムとマリンの解放感がシンクロして、抗いようのない高揚感が襲い会場は笑顔に包まれる。
頬の筋肉が緩みっぱなしの所に、リバースがギターソロでアレンジを魅せる。
ポップでカラフルな空気を一瞬だけ一変させる攻撃的なフックを入れて、その後に甘みを帯びたメロディーラインがより鮮明に身体に届く。
一度バウンドして心が大きく跳ね上がる様な感覚に圧倒されて、自然と流れてくる涙を止められなかった。
「オハヨウゴザイマス!」「イイネ!イイネ」と気楽に喋るリバースは微笑ましい限りだ、とMC中にキーボードセットに10歳くらいの女の子が立つ。後から気づいたが、なんとリバースの愛娘だったらしい。
緊張した面持ちが可愛らしく観客から声援が飛ぶ中、4曲目に演奏されたのは"Perfect Situation"。
ウィーザー屈指のパワーポップバラードに怒号と悲鳴の様な歓声が響く。
暖かく、センチメンタルなメロディーがどんどん重なっていき、圧倒的な包容力を作り出す。
身を任せるオーディエンス。
「俺にも希望があると言ってくれ。この先ずっと一人はいやなんだ」
もう一人ではないリバースが過去を見据えながら、前を向き僕らと共に歌う。
スタジアム大合唱となったシンガロングを歌い上げたリバースは、少し懐かしい、思いつめた物憂げな表情でステージ中央にゆっくりと佇むのだった。
一呼吸おいて始まったのは5曲目"Thank God For Girls"。いよいよホワイトアルバムからの曲。
マイナーで妖しいメロディーが漂い、か細い張り詰めた声でリバースが語りかけるように歌う。
こういう異端な曲を、すんなりビーチコンセプトアルバムに入れて、それがアルバムからピックアップされるくらいの曲である辺りが、非常にウィーザーらしい。
徐々にまくし立てる様に温度が上がってくるボーカルに同調して、妖しさを助長して行くかの様なピアノの音色も力強さを増し、今度はバンドサウンドを引っ張っていく。
「thank god」の大合唱で、いよいよサビで大爆発した音達は、マリンの空の彼方まで舞い上がり、それを留めるかの様な重低音が響き会場を包み込む。
憂鬱を感情にのせて、ヘヴィーかつエモーショナルな音をポップネスに集約させる、という確かな今までのウィーザーらしさはあるが、それでも今までのどの曲とも似つかない、全くオルタナティヴなウィーザーを感じるこの曲に、彼らの表現の幅の広大さを感じ、この上なく前向きなバンドしての成熟を感じた。
ラストのリバースのソロには、後方の大型ビジョンに、日本の女性有名人の画像が次々と現れる。
僕らに背を向けて女性達に跪くリバース。
ロミオの様に片膝を立てて片腕を伸ばして歌い上げたリバースの姿に、会場からは感嘆の声援と賞賛の拍手が送られた。
またも涙腺が緩む瞬間だった。
興奮冷めやらぬ中、出番を終えた女の子に温かい拍手が送られる。
6曲目に持ってきたのはパワーロックアンセム"Beverly Hills"。
スタジアム向きの地面ごと揺らすかの様なビート。呼応するように広がった足踏みと手拍子でマリンが揺れる。
ギタリストのブライアンのハープソロも炸裂し、会場が再び陽性のパワーで満たされていった。
愛娘の登場でも思ったが、ウィーザーっていうバンドは、ロックバンドでありながら、誰の心にも響き、誰でもウェルカムであるという境地に達している。
アリーナでも若い女の子から、親子、外国の人、ロックなおじさんまで多種多様な人が詰めかける。
ポップスとの境界のぎりぎりでオルタナティブらしさを維持しながら、それでも鋭く誰かの心の琴線に響き続けた結果、このライブの光景となるのだと思った。
それに応えて、さらにもっとその輪を広げていく様に、リバースの音楽の幅は広がり続けていく。
次の曲の前に、リバースが一人のゲストを紹介。
MONOEYESも同日に出演するだけに、あるかなと予想はしていたが、やっぱり出てきたスコット・マーフィー。
最近はリバースの横も板についてきた日本での相棒を隣において、ホワイトアルバムから7曲目"California kids"を日本語で歌う。
カタコトでも暖かいピュアな日本語と、相性がいいストレートで爽快なメロディー。
もはや第二の故郷となった日本の言葉そのものに興味を抱いて、ピュアな情熱を向けて楽曲として形に残す。その求道精神自体すごいことなんだけど、リバースがやる事で親近感たっぷりなライトさみたいなものもあって、誤解を恐れずに言うなら、楽に聴けるし自然と笑顔になれる。
これも味があっていいって事だ。
日本でのフェスへ、最高のプレゼントとなった。
余談だけど、この後の MONOEYESのステージにリバースが逆乱入を果たしていた。
ほんとに仲がいい二人。
スコット・マーフィーを見送った後、さあ行くぞ、と気合を入れなおした様に見えたウィーザーから放たれたのは、"Dope Noze"。
ベースのスコットがダンディーに歌い、リバースは楽しげにステージを歩き回る。
キャッチーで歌いやすいシンガロングで会場に波が起こる。
かと思えば急に始まった" Back To The Shack "。
まさかのメドレー形式に動揺しながらも躍らせられてしまう確かなロックギターサウンドが響く。稲妻のストラップを誇らしげに掲げ、声高らかにロックへの回帰を宣言する。
そのまま立て続けに” Keep Fishin' ”、” The Good Life”と懐かしいナンバーから夏らしい陽気なパワーポップをチョイス。
そして1stのブルーアルバムから至高のサマーソング”Surf Wax America”になだれ込む。
ひときわ大きな手拍子と共に、今度は紙ヒコーキのように、天まで飛んで行けという気概で跳ね上がる様に歌う。
多くの曲と多くの時間を共にしてきた、たくさんのファンと、思い出を振り返るようなメドレー。
その想いが伝わってくる様で感慨深い構成だった。
いよいよライブも終盤を迎える。
アコギに持ち替えたリバースが「ガンバッテ!」とオーディエンスに声をかける。
それまで一昔前のパソコンのスクリーンセーバーみたいなアニメーションが流れていた後ろのビジョンが、南国の島をイメージした画に切り替わる。
9曲目" Island In The Sun"だ。
儚くて美しい、揺らめくメロディーに"HE HE"の合唱。
はかったかのように、ちょうど小雨が降り出してくる。
雨音しか聞こえない静寂の中に、リバースの声が優しく降り注ぐ、ちょっと奇跡の様な光景だ。
それを目撃した事に興奮を覚えながら、感極まってしまったが、涙を流しながらでも目に焼き付けたいと思えるこの夏一番の景色。
時間がゆっくりと流れて、雨粒ひとつひとつがフワフワと漂い、それを通して見るステージは、まるで絵画の様に美しい光景だった。
素晴らしすぎる贈り物の様なロケーションに興奮する歓声をあげていると、休む間もなく鳴らす不穏で美しいギターリフに、オーディエンスの興奮はピークに達する。
10曲目は" Say It Ain't So"。
クールでソリッドに、徐々に攻撃性を増すサウンドと呼応する様に、小雨は徐々におさまり、僅かに残る霧雨が更に幻想的な光景を作り出す。
その霧を押し流すかの様な音の洪水が襲う。
曇天の空に高らかに鳴るギターが、強烈に急速に耳に馴染み、快感に変わり心を支配する。
甘い痺れを残しながら、ライブはもう後一曲を残すのみとなった。
間違いなく今日のベストアクトだと言う確信を持ち、涙を拭きながら、ふと想いを馳せる。
両サイドの大型ビジョンには、オーディエンスの姿も映る。
カメラが捉えた可愛い女の子が映った時には男どもの歓声が上がったり、一つの注目のポイントだった。
そこに初老の夫婦が映る場面があった。
少し照れ臭そうに、でも嬉しそうに映るその2人は、どのリスナーにも焼き付いた事だろう。
この夏に、おじいさん・おばあさんになっても、ウィーザーを聴きにくる。
夢溢れる素敵すぎるその光景こそ、本質的に音楽があるべき光景であり、ウィーザーが成し遂げて作り上げた一つの答えなんじゃないかと感じたのだ。
誰の胸にも響くボーダーレスというのは至難の技だけど、そこだけを見据えてきた達人の業というよりかは、ふらふらしながらもまっすぐ進んできた彼らの道の先の光景なのだと思う。
迷ったり、引き返したりもして、そもそも音楽と歩くと決めた時に、当初見たかった光景は見ることができなくなっていても、今この場所から見える景色は、目指していた光景より素晴らしい光景が広がっていたりするのだ。
ウィーザーらしさ溢れるピュアでハートフルな光景は、彼らが鳴らしてきた音が実に良く似合っていた。
はにかみながらビジョンに映った2人の光景は、僕らリスナーの一生の憧れだ。
ひとつ、ああなりたいと思える姿が増えた。
その時まで SUMMERSONICがありますように。
そんな事を考えながら、ラストにやってくれた11曲目" Buddy Holly"。
ずっとずっと演奏し続けてきた、泣きのギターに踊れるパワーサウンド、まさにウィーザーがここまで残してきた音楽。
ともに踊りまくる観客。確かな充実感に満たされて、たくさんの笑顔が溢れる。
終わってしまう寂しさもあったが、この日のライブをこの曲で終われる事に、たまらなく幸せを感じ、頬が緩む。
「それはいつまで経っても変わらない」
「誰がなんと言おうと気にしない。そんなことどうだっていいのさ。」
特にこの日は強く響いたメッセージに、その日何度目かの涙を流しながら、それでも笑顔でライブを終える。
4人でセットに登り、肩を組んで何度も何度もお辞儀をするウィーザーに、暖かい拍手が送られる。
時間にして40分。
短い時間だったが、手放しで喜べる最高のステージだった。
本当に多様な人が見に来ていた中、ウィーザーはそれに応えて、自らの歩みをなぞるかの様にステージに立っていた。
weezerの歴史が自分の音楽史だって人も多いと思う。
間違いなく最新モードなウィーザーだけど、同時に懐かしさも感じさせてくれる特別なステージだった。
伝説を目撃したなんて堅苦しく大仰な表現はウィーザーには似合わない。
それでも忘れがたい夏の思い出。
泣き虫リバースに何度も泣かされた、心に強く残る夏となった。