Football soundtrack 1987-音楽とサッカーに想いを馳せる雑記‐

1987年生まれサッカー・音楽(ROCK)好きがサッカー・音楽・映画などについて思いを馳せる日記

【今月の新譜④】Weezer ”Pacific Daydream”【全曲レビュー】

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僕らのWeezerの不思議な最高傑作が届いた。

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2週間連続の台風により、様々なニュースが吹き飛ばされた様に、個人的な感触では10月の超絶怒涛のリリースラッシュに吹き飛ばされそうになったウィーザーの新アルバム。

でもやっぱりウィーザーは一番好きだし、フーファイやハイスタやリアム・ギャラガーの名前の中に彼らを見つけた時は、死ぬほど飲み食いした後、帰り家の近くのコンビニで同じく死ぬほど美味そうなアイスを見つけたように、全くもって別腹な幸福感が訪れる。

そういう不思議なポジショニングを取り続けるバンド、ウィーザーの新作は不思議な世界の最高傑作だった。

本日はWeezer ”Pacific Daydream”に想いを馳せる。

 

前回の記事はコチラ❕

www.footballsoundtrack.com

”Pacific Daydream”

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パシフィック・デイドリーム

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Pacific Daydream

Pacific Daydream

  • ウィーザー
  • オルタナティブ
  • ¥1600

 

前作10作目となる4回目のセルフタイトルアルバム、通称"ホワイト・アルバム"から約1年半。

このペースも異色の速さだし、個人的に2016年ベストアルバムだった前作の感触とサマソニ2016で見た感涙のステージに、余韻がまだまだ続いている中だったので、唐突な印象が抜けきらなかった。

 

www.footballsoundtrack.com

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今年の3月くらいには、先行となるリードトラック”Feels Like Summer"が発表されて、最初は唖然とした。


Weezer - Feels Like Summer (Official Video)

モダンテイストをこれでもかと盛り込んだメロディーは、PVのイメージよろしくのデジタルで反響的である。

聴き進めると同時に、ウィーザーらしいキャッチーな瞬間も出てくるが、可能な限りモダンに溶かした彼らのポップネスは、開放感ではなく霧雨の様に肌を覆う不思議なグルーヴに包まれている。

過去、見たことがないウィーザーを何度も感じ、それでも確かなリバースの声に、見たこともないウィーザーが新しいモノとして驚くほど馴染んでいく感覚も同時にあるのだ。

不思議。

 

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タイトルの”Pacific Daydream”=太平洋の白昼夢は今作のテーマになっている。

中国の思想家、荘子による説話「胡蝶の夢」にインスピレーションを得たのだという。

「胡蝶の夢」は、うつらうつらと蝶々になってひらひらと飛んでいる夢を見たが、目が覚めた時、自分が蝶々になった夢なのか、それとも今が蝶々の自分が見ている夢なのかわからなくなった事を説き、形の区別があるものでも主体の意識からしたらわからないものだと言い、最終的には万物は変化しても本質は変わらないという思想にたどり着く。

 

その結論までを描いているかはわからないが、おそらく夢か現実がの境界がわからなくなるような、ドリーミーなポップ・ロックがテーマとしてあるんだろうと想う。

明晰夢の様に、意識をもった夢の世界の様な、この世とは少し違う世界観。

そこでロックをポップを鳴らすとこう聞こえるのかもしれない。

カリフォルニアの海の次は、中国の古書という、それこそバリアフリーな突拍子もない発想は、なんともリバースらしい。

 

ソングレビュー

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少し夢想のテーマだけに、音や展開も曖昧で難解なものになりがちだが、そこに今作の凄さもあった。

泣き虫ロックをフラフラでもまっすぐ鳴らしてきたウィーザーの圧倒的な手練感。

一人一人が卓越したミュージシャンとして、世界観の雰囲気を助長させ、時には前面にさり気なくいつのまにか出てくる聞き慣れた演奏。

鮮やかに演じきるだけでない、ちょっとのエッジで莫大な存在感を香らせる、そういう至難の業を軽々とやっている凄腕職人感を感じるのだ。

 

その真ん中に堂々と、そしてポツンといる様なリバースの声。

ロックシンガーとしてのオリジナリティと技量は今更疑いようがないが、そことは違う次元のモダン・ポップシンガーとしての彼の存在感は、異様な程のパワーがあった。

リバースならこの位やってのけるだろうって期待をあっさりと凌駕する抜群の声質。

澄んでいながら身に纏わる様で、優しいようで突き刺さってくる。

 

口笛の様なポップネスを、心優しく捻くれたロックバンドが巧みに奏でる。

単なる閃きによって生まれた音でなく、思慮深さすら感じる甘美な芸術作品的な趣も溢れるパシフィックデイドリーム。

是非聴いてみてほしい。

 

1.Mexican Fender


Weezer - Mexican Fender

ビシッと決まったディストーションギターは変わらない王道のウィーザーサウンド。
メキシカン製のフェンダーの方が安いらしい。
優しいグルーヴィーは全編通して、秋っぽいメランコリーな木の葉舞う旋風に吹かれる。
リバースと2人きりになった様なふと心奪われる声、’She loves me now’のリフレインが切なく、上手く行かなかった夏の恋をいつもの様に、優しく歌い上げる。
通して聴いて戻ってくると余計ウィーザー成分の濃さに感動する文句なしのオープニングトラック。
 
2.Beach Boys


Weezer - Beach Boys

アシッドなギターとベースの濃密なリズムのモダン・ポップナンバー。
流暢に泳ぐリバースの声とパーカッションが抑揚をつける。
スペースポップ的な雰囲気もあって、加速して空間が回転して行くようなサウンドは実に精緻で、デジタルな近未来的めまぐるしさも感じる展開。
’ヒップホップが流行ってるけど、ロックが好きなんだ。好きなバンドの話をしていい?’と、ビーチボーイズへの想いをこのテーマを合わせる突飛さは彼ららしいリスペクトの仕方。
3.Feels Like Summer


Weezer - Feels Like Summer (Roses N’ Weezer Version)

最も速くリリースされたリードトラック。
ガンズのパラダイスシティをパロった不可思議で楽しそうなPV。
それよりもワンダーな曲全体の空気感。
ジャミロクワイみたいな濃密に霧の濃い音楽世界。
いろんな音する空間をリバースの声が水滴の様にポツポツと落ちていく。
PVが2バージョンある辺り’Island in the Sun'を想い、それに近い大事な曲になりそうな予感。
 
4.Happy Hour


Weezer - Happy Hour

ピアノが心地良いシティーポップのグルーヴ強めのアッパーなナンバー。
R&B的なノリのサウンド、その幻想的な反響音の反面でリアルに弾かれるギターがキマってる。
ポップシンガーとしてのリバースもいつも以上に艶やかに歌い上げて、ボーっと聴いてしまう超かっこ良さがある。
 
5.Weekend Woman


Weezer - Weekend Woman

ユニークなベースラインとキラキラしたギターのゆったりしたナンバー。
アコースティックに流れていく夢の世界の様な幻想を泳いでいる感覚。
透明な疾走感のサビは今作きってのチャーミングさだ。
 
6.QB Blitz


Weezer - QB Blitz

アコギと幽玄的に消え入りそうで美しいリバースの声がじーんと染みるミドルなトラック。
今までと違う曲で心震わせるボーカルを紡ぐリバースに驚きつつ、ファニーな音もちょうどよく混ざりながら、ドリーミーなナンバーは徹底して優しい。
 
7.Sweet Mary


Weezer - Sweet Mary

クラシックな煌めきの香りするギターとピアノから跳ねるバンドサウンドと、火花の様にチリチリ輝くするモダンな音。
ロック的アプローチではない、泣きの声が琴線に触れる。
60年代と言っても通じる様なヴィンテージの深みをモダンポップに出した、芸術的な一曲。
 
8.Get Right


Weezer - Get Right

潤いたっぷり含んだメロウなギターメロディー。
本当にリバース?から段々リバースらしさも覗かせる新次元のボーカル。
メランコリックでパワフルなグルーヴを次第に帯びていく、アガってく展開。
過剰にならないギリギリのラインの音の種類で、ロックに滑り出す。
きってのロックナンバー。
 
9.La Mancha Screwjob


Weezer - La Mancha Screw Job

シンプルなメロディーに複雑に様々な音を溶かして進むソウルフルなポップ。
前面に出たドランミングのグルーヴィーさ、メランコリックに奏でるギターサウンドのエモーショナル。
絶妙な塩梅で融合する、ジャストサイズの職人技だ。
 
10.Any Friend Of Diane's


Weezer - Any Friend of Diane's

最後まで一貫とした浮遊感と電撃感の移ろい。
クライマックスらしくより歪みも響きもトーンが強めに。
物語の本を閉じるのではなく、飛んでいく蝶を眺めて終わるラストシーンがこのアルバムにふさわしい。
 

秋らしい不可思議な最高傑作

唐突に訪れた寒さに対応できない様に、急に現れたこのアルバムは今までにない格好いいウィーザーを見せてくれた。

聴き進めて馴染んでいったときが今から楽しみなような新しい音。

なんと、実は次のアルバムもほぼ出来ているらしい。

その名も’ブラックアルバム’。

12作目という大ベテランでこのペース。

いよいよ訳がわからない奇人レジェンドの粋にいるウィーザーは、これからも楽しませてくれそうである。

 

それではまた別の記事で。