【バンド&ソングレビュー10】Beady Eyeに想いを馳せて 今もう一度聴くグッドバンド 2019年8月リライト
OASIS(オアシス)というバンドをご存知だろうか?
逆に凄すぎて言葉に詰まるくらい、近年で最もわかりやすく世界最強の座についたイギリスの国民的ロックバンドである。
ギャラガー兄弟を中心としたバンドサウンドとボーカルとソングライティング、数々のグッドメロディーと強烈・苛烈なカリスマ性でロックバンドとして規模も実力も影響力も、歴史的に見ても最高クラスまで上り詰めた近代ロックンロールの頂点。
数々のムーブメントを引き起こし、彼らの曲は国歌よりも有名になり、今でもこれからも未来永劫響き続けるのは間違いがないだろうと思う。
2009年に活動を停止して以降2019年現在も、兄ノエル・ギャラガーは自身の理想のバンドを作り上げ伸び伸びと新たな境地に入った活動を続けているし、弟リアム・ギャラガーも満を持してのソロアルバムが驚異的なセールスを記録したばかりで、その影響力は留まることは知らず、常に再結成の声も高まり続けているのである。
さて、Beady Eyeというバンドをご存知だろうか?
オアシスの解散はノエルの脱退という意味合いが強く、リアムを中心にオアシスという名前を捨てる事、を残ったメンバーが選択した事で、逆にオアシスの名前を永遠なものに閉じ込めた。
Beady Eyeはノエルを除いたメンバーで始めた新しいバンドなのだ。
2枚のアルバムのみの発表にとどまったが、リアム好きな僕にとって、ふと聞いてみると意表を突かれるくらい素晴らしい。凄く良い。
オアシス後の不条理な期待に飲み込まれた格好になったけど、それすら包み込むような優しい音を奏でるバンドだった。
そしてそのリード・ボーカルを取ったリアムのソロの結実~オアシス再結成の機運の流れも有り、キャリアの狭間として捉えられてしまう格好も否めなくなってきている。
今回はそんなBeady Eyeに想いを馳せたい。
知らない人も是非、読んでみてくれたら嬉しいです。
Oasisの記事はコチラ❕
Beady Eyeとは
2009年にオアシスは何千回目かの兄弟喧嘩がついに収まらず、ソングライターでありリードギターであり実質的なリーダーのノエルの脱退で終焉を迎えた。
その後に残ったメンバーはBeady Eyeと改名しレコーディングをスタートする。
ボーカルのリアムとギタリストのゲム・アーチャーとアンディー・ベル、ドラマーのクリス・シャーロックの元メンバーにベースを加え、ソングライティングはリアムとベルとゲムが曲を持ち寄っていた。
2011年に1stアルバムを発表。2013年2ndアルバムを発表し、その翌年2014年に早くも解散を発表する5年足らずの活動だったが、精力的にツアーも周り、オアシスの楽曲を披露する事もあり局地的に話題をさらっていた注目を集めたバンド。
忌憚なく言ってしまえば早い話、ノエルが抜けたオアシスのメンバーの新しい音楽であり、世間的にはオアシスに近いサウンドを期待されていたバンドだった。
リアムが’オアシスを超える。ノエルは頭下げて戻ってくるはずだぜ’とビッグマウスを飛ばしたが、結局は彼等Beady Eyeの楽曲よりも、オアシスの楽曲を歌うリアムを求められていた。
それでも抜群の経験値を敢えて捨てきらず、自分のアイデンティティーとの狭間で曲を作り、リアムは自分の声に新たな価値を見出し、その僅かで貴重な瞬間を閉じ込めたのがBeady Eyeであり、今見ればリアムのソロの強靭さ・優しさに繋がる必要な過程であったとすら思うのだ。
1stの音源が発表された時のリスナーの反応は、なんだオアシスの延長のメロディーをやってるだけじゃないか、いや全く違うインディーロックじゃないか、とか結構2分していた。
そんな中で、なんだかんだ凄いセールスを記録する辺りは流石だ。
それがオアシスの名残も残しながら、オルタナティブでポジティブな変化も感じる絶妙な瞬間の結晶を閉じ込められた結果なのだと思う。
変化を求めてた人にとっては、唖然とするくらいにベーシックなサウンドで、それでもその彩りと深さみたいなものはさすがと頷かされるクオリティーを持っていた。
ノエルのギターがない寂しさも存分に感じつつ、そこからミニマムに振り切りセピアなインディーの香りが漂う。
リアムのボーカルの一点突破ではなく、曲全体でそれを後押しする雰囲気があった。
オアシス後期にはボロボロだったリアムの声も、落ち着きを取り戻し、躍動感よりも深みを増して染み入るように響く。
音域が狭まった事を見事に逆手にとって、表現力を増す円熟のボーカルを魅せたリアムは、このバンドでも唯一無二の音だった。
どこか慎重でも、穏やかで眩い自然な振る舞いに徹したナチュラルなモードが、十分すぎるほど伝わってくる。
ソングライターのアンディーとゲム、そしてリアムの曲を織り交ぜる事で表情を変えながら彩りを加えられる事も大きいポイントだった。
そもそも個々人がイギリスの音楽シーンをレジェンドと言ってもいいメンバーだ。
逆に解き放たれた開放感も感じられつつロックサウンドだけにとらわれない幅の広さを魅せる事になる。
全体通して大人の叙情的で枯れた空気、瑞々しさとはかけ離れた所でも確かな生命力を感じる思慮深い音を感じる。
ブリットポップの死、オアシスの死をもう一度噛み砕いた、スモーキーな空気感は時代背景も反映し、それを彼らがやることに大きな意味があった。
過去にすがる様な気持ちが感じられたとしても、それはそれでOK。
オアシスは超えなくとも、その先を見せる事に成功したBeady Eyeは存分に良いバンドだった。
オアシスという巨大なモノに押しつぶされそうでも、ある意味リラックスしたようなナチュラルな音は、凄みを感じるオルタナティブロックを創り上げていたと思うのだ。
新しい伝説ではない、全く違う別の語り継ぎたいバンド。
是非聴いてみてほしいバンドだ。
ソングレビュー10
ふと歩いていたら足を止め、深く深く曲に引き込まれてしまう名曲達。
10曲を厳選してまとめてみました。是非聴きながらご覧ください。
1.The Rollar
1stのリードトラックでバンドの始動のシンボルにもなったキャッチーなロックナンバー。
超絶シンプルなギターの調べにリアムの声がど真ん中で響く。
穏やかでゆらゆらした歌い方でも、エッジの効いた声のリアムは健在。
親しみやすいリズムで展開するアンセム的なサウンドも、どこか王道から一本だけ奥に行ったような、いいバランスの音が鳴っていた。
2.Four Letter Word
アルバムのファーストトラック。
アンディー・ベルが書いた性急なビートに残響の濃い、ずしっとくるロックサウンド。
合わせる様にリアムの前のめりな声の迫力が分厚くて、オアシスの続きだと思ってたら頰つらを叩かれるような新鮮なエモーショナル加減だ。
3.Beatles And Stones
イギリス人じゃ無くともロック好きならテンション上がるタイトルに思いは募る。
リアムが書いた曲。
モチーフに恥じないくらい無駄を削ぎ、尖らせたシンプルで美しいロックンロール。
クラシカルなグルーヴはUKロックの伝統を重々感じ、割りとフリーキーに歌い散らすリアムが楽しそうなのが何よりうれしい。
流麗な節回しのボーカルはレンジの広さも感じるし、解き放つ様な開放感も香るパワーソング。
4.Millionaire
アンニュイで心地よいギターメロディーが流れていく彼らの代表曲。
優しさを増したリアムの声と相まって、開放感溢れる音の重なりが気持ち良くちょうどいい爽快感。
サビでどかーん、ではないグッドメロディーが吹き抜ける爽やかさを終始感じられるデザインは、より遥かさを感じるのだ。
5.Kill For A Dream
穏やかでゆったりとしたミドルロックチューン。
ストリングスの柔らかい旋律から優しく浮遊感すらあるリアムの声が細部まで響き渡る。
大きな見せ場よりも淡々と進むスロージャムで耳に触れる心地の良さ、曲全体でただただ実直に声を重ねていくリアムは、敢えてそうしているようで何とも儚いのだ。
6.The Beat Goes On
オアシスのサウンドに近い、そしてそれ以上の切なさを感じるロックバラード。
かつてない程の光に満ちた暖かみで、混じりっ気のないピュアなハートフルな響き。
オアシスの事も、ロックの事も、きっと僕らの事も、この曲が全て包んでくれる。
彼ら最大のアンセム。
7.Flick Of The Finger
2ndアルバムから荘厳なブラスビートの目立つミドルロックチューン。
地を這うような音が、じわじわと滲み寄ってくるような巨大なスケールを感じる新しい一面だった。
素のリアムの声がストーリーテラー的にも指揮者の様にも聞こえ、無機質ながら明らかにバンド・サウンドを引っ張る存在感を感じる。
8.Soul Love
2ndのリアムが作ったミステリアスなロックナンバー。
マイナーで不穏なメロディーの真っ暗闇をリアムの声が漂うような展開。
デジタルの信号音の様な音がさらに焦燥感を煽るダークな心地。
実に艶やかに、どこか乾いたリアムの声は漂う様に、でも物凄い近くで響く。
ソウルの女王、アレサ・フランクリンに敬意を表し、リアムがソロのツアーでも披露した。
9.Second Bite Of The Apple
色んな音が弾むミクスチャー的要素の強いポップロック。
ベックとかのオルタナに通ずるワクワク感。
表情が移ろい変わる起伏に富んだリアムの声が楽しい。
アッパーに色鮮やかな色彩が浮かんでは消えていくが、鮮烈に耳に残る強靭なオルタナパワーを感じる。
10.Don't Brother Me
丸くなって淡く揺らめく様なのに、何故こんなにも鋭く心に響く声なのか。
優しさに溢れたメロディーはリアムのピュアさの一端だ。
この音に引き込まれていつの間にかリアムの声とギターの音以外がセピアになっていく。感覚はオアシスで感じたものと同じだ。
Beady Eyeは狭間で穏やかに漂うように響く
以上、ご覧いただいた皆様ありがとうございます。
オアシスが今後どうなるかは、予測不可能な領域にあるし、ソロ作品の強靭さも凄いレベルに有る。
ただ今後そういう狭間にあってこそ、穏やかに輝いたBeady Eyeは、絶対に響くはずなのだ。
先を見越していたわけではないと思う。自由にやり切った音楽でもないと思う。
それでもこの瞬間に、今センシティヴに音を鳴らす事、それが数年先にも意味を持ち、オアシスとも、ソロ・アルバムとも違う、実にグッドな音楽を鳴らしていたと感じる事が、今実際にあったのだ。
Beady Eye、僕は好きなバンドだ。
こういうバンドこそ、広めていきたい。
それではまた別の記事で。