Weezerの12枚目のオリジナル・アルバムにして5作目のセルフタイトルアルバム’黒’を聞いた
前前作10th'Weezer(White Album)'はオルタナティブなウィーザーロックサウンドを前面に押し出し、ビーチをコンセプトにモダンなペット・サウンズとまで評価を受けたクラシックスタイルの頂点だった。
前作の11th'Pacific Daydream'では非現実的でドリーミーなサウンドを白く眩く展開する支配力すらある空想的なサウンドを練り上げた。
Weezerのそしてリバースのクリエイティビティはこの数年、ベテランバンドらしからぬ天井知らずの勢いでとんでもない境地に入ってきている。
2017年の'Pacific Daydream'のリリース時にはすでに新しいアルバムの曲は出揃いつつあり、そのアルバムが’黒’を冠する5枚目のセルフタイトルアルバムである事を明かし、僕らファンの心を揺さぶらせた。
ドリーミーな白昼夢感のその表裏。一緒に出てきたダークなアイディアが満載のアルバムになりそうでワクワクしていた1年半。
が、急にTOTOの名曲'Africa'のカバーを発表し、驚異的なヒットを飛ばしグラミーにまで呼ばれる騒ぎになった。
結局、そのままカバーソング集をWeezer(Teal Album)として発表する、トリッキーな展開は何ともウィーザーらしくファンを驚かせてくれた。
Weezer - Africa (starring Weird Al Yankovic)
Weezer(Black Album) ブラックアルバム
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いよいよ満を持した形となって2019年3月1日にリリースされたブラックアルバム。
セルフタイトルシリーズお馴染みの4人が並んだジャケが今回は黒塗りになってる。
その時点でここまでの流れとかバンド史とかを上から塗りつぶす様な禁忌的な香りを感じる。
リバース自身が実験的な要素が多く含まれるとコメントしていた通り、白そして白昼夢でリラックスした姿を魅せてきたウィーザーの対比となる部分に注目が集まる。
そう思ってたら割と面食らう。
ソウル・ファンクなビート、ブラックなノリを混ぜた黒というオープニング。
まるでオルタナ王子BECKのアルバムを聞いてる様な新感触。
超面白いアルバムだ。Weezer史上最もケミカルで深度が深い。
そうきたか、どころではなく一聴では掴みきれない。
それでも何度も聞けばいつものWeezerの高揚感もついてくる盤石のメロディーも確かにある。
マルチなサウンドメイクは華もあって暗さもあるが、実験的な中であってもリバースであり続けられるオルタナシンガーっぷりが実にWeezerサウンドらしさを芯に残している。
その芯すら揺蕩うレベルのサウンドの妙技だが、緻密なトラックも鋭利なラップも届かないオルタナなロックのエネルギーが、一周した後には溢れていたのだ。
ソングレビュー
"Can't Knock the Hustle"
Weezer - Can't Knock The Hustle (starring Rivers Wentz)
Jay-Zの同名の曲にインスパイアを受けたオープナー。
ヒップなサウンドにラテンのリズム。
リバースの本質である雑食なオルタナティブセンスを発揮しそれを今回のカラーのマッドなロックテイストに仕上げた絶技。
トリッキーでヒップホップへの接触的にロックバンドらしからぬ禁忌的な感触、でも歌うなってのが無理。
’アスタラウェゴ’(また会おう)をこれだけキャッチーに連呼されると楽しいに決まってるのだ。
急にバチッと終わるラストも心動く瞬間だった。
'Zombie Bastards'
個人的にこのアルバムでの最大のキラーソング。
新しい発見と刺激に満ちた穏やかなキラーチューンは耳元で囁いていたと思ったら深い奥行きの音に距離感を乱される。
前作から通ずるドリーミーなくらい広がってく空間、はじく様なギターの心地良いビート。
ユルくも絶妙にビビットな語感に一瞬だけオレンジ色に光るギターの燦めき。
不可思議なポップさにシャープなサウンドにパワーポップビートという見たこともない世界でも、全く怖くねぇ。
リバースの声さえあれば踊れると再確認する喜びも胸にある黒のド真ん中で鳴るアンセム。
'High As A Kite'
Weezer - High As A Kite (Official Video)
これまた妙な芝居をしてるMVのシングル的なトラック。
フォーキーで穏やかに子守歌の様に優しく歌うポップソング。
凧がクルクルと落ちる様に優雅でちょっと儚い。
美しいメロディーの中にも、MVの中の暴れっぷりの様なエナジーをギリギリ表面張力で残し、チリチリとした焦燥感に焦がされる。
子供達のひいた顔にドヤ顔を決める背徳感。
Living In L.A.
ロサンゼルスという大きな言葉を使い、女の子に想いを馳せたウィーザー節の一つ形。
陶酔感はありながらシャープにスタイリッシュ。
ディスコチックなポップ感満載のビートにどこか女の子の影を感じる。
肩肘張らず華麗に歌い切るリバースのフロントマンっぷりが癖になる悪魔的な魅力がある。
カラフルな黒 こりゃ名盤
5枚目のセルフタイトルアルバム。12枚めのオリジナル・アルバム。
超ベテランにしてピンカートン的なデザインチェンジをかましてくるウィーザーのスタイルだからこそ、僕らの心のどの瞬間にも当てはまり、心の歌であり続ける。
青からは想像できないし、白と正反対ってわけでもない。
漆黒かと思えば実にカラフルでダークなパワーポップ。
そのカラフルさには青も緑も赤も白も浮世絵だって含まれてる。
それを黒で塗りつぶしたケミカルな空気がたまらなくいかがわしいのだ。
ネクストレヴェルとかの次元ではなくウィーザーのロックの革命的な1枚。
こりゃ名盤。
それではまた別の記事で。