序論 モノアイズとは何か?
未だにエルレの亡霊みたいな奴がいる。
エルレのあの頃は良かった、ハイエイタスは難しいし、モノアイズは聴く気にもならないって奴。
思いっきり世代の僕としてもエルレの熱狂ぶりというのは今のどのバンドとも規模が違ったと思っている。
思い出補正だろうが、身体で感じた熱はそう塗り替えられる事はない。
ただ、未だに亡霊のように取りつかれて、今を否定する人を見ると、何かモヤモヤするのだ。
聴きゃいいのに。きっと30代になろうとしてんのに学生時代の恋愛の話とかを毎回飲み会で話してウザがられるタイプだきっと。
そんな事を考えつつ、MONOEYESの新譜を聴きながらMONOEYESとは?とちょっと考えてみる。
ELLEGARDEN the HIATUS MONOEYES
ELLEGARDENが2008年に活動休止になり、ボーカル・ギターでありフロントマンの細美はソロ活動として模索し形にしたthe HIATUSを2009年に始め、音楽者・アーティストとしての探求を最高最強のメンバーの元、大いに深めていき表現者としての鍛錬を積む。
持ち前のグッドメロディーとロックの反骨精神は軸に据えたまま、エネルギッシュでオルタナティブに蒼い音を炸裂させ走ってきたエルレと、どっしりと構え次々とロックの枠を飛び越え芸術表現として練り上げた音を夜空の星の様に輝かせたハイエイタス。
ELLEGARDEN 'Supernova' live
the HIATUS 'Deerhounds'
その対比の中、そして現行のハイエイタスの裏、細美自身の中でシンプルで率直なロックへの乾きみたいなモノがあり、それを形にしたのが2015年に始動したMONOEYESだった。
MONOEYES 'My Instant Song' 'Run Run' 'When I Was King'
MONOEYES - My Instant Song(Music Video)
インスタントな歌。いつだって気軽に止めていい。
飾らない’いつもの’ただただ最高なメロディーに載せたメッセージは、率直でなんともロック的でキャッチーであり、あっけにとられつつもキラキラしたそれに心は躍らざるをえなかった。
ガス抜きな側面もあったと本人も言っているが、もちろんそれは聴く僕らにも当て嵌まっていて、シンプルかつオルタナティブなロックの元素を多分に含んだキラーソング達は多くの人に支持された。
それこそエルレの熱狂を思い出す瞬間もあれば、ハイエイタスの美麗さも息づいている。
音楽史ゆえ、どうしても切っても切り離せないが、それすらもプリズムの中に組み込んで色づかせられるのは、モノアイズのシンプルかつ強力なヴォーカルと演奏があってこそなんだろうと思う。
メロディアスでありながらロックと言う表現のパワーを凝縮して、眩く火花のようにメロディーを煌めかせる、それに相応しい音圧と骨太な演奏力。
それはエルレもハイエイタスを呑みこむロックの大きな塊の存在にも感じた。
MONOEYES - Run Run(Music Video)
そもそもハイエイタス・モノアイズどちらも日本のロックシーンに置いて重要過ぎるバンドを二つ両立させていることが驚愕なのだが、ボーカル・サウンドメーカーの同じロックバンドでありながらまるで色の違う2バンドは、その面白さ・奥深さをあまりにも身近で実感できる幸福な状況すら作り出しているし、底知れない才能を感じさせながら僕らの側に立ち続ける細美への感謝すら覚える。
モノアイズのライブにも何回か足を運んだが、本当に幅広い層のリスナーが来ていた。
細美自身もライブ前にひょっこり出てきてステージ上から注意事項と共にイジったりして爆笑を呼んでいた。
「10年前は俺だって私だってイケイケでライブに参戦してたんだって奴ら、お前らの肉と骨はその10年で確実にボロボロになってるんだから気を付けろよ!あとフロントエリアにヒール履いて来てる人は今すぐ帰ってください!」これはホントに言っていた。
大半が良く見るライブの光景の人々でありながら、何十年もライブに足を運んでそうな人、10年前にエルレを見て以来の人、熱心に細美の魅力を語る高校生、社会人になってから初めてモノアイズに出会いなんとか平日の夜に仕事をぶっちぎってきたOLの人。
僕も単独に一緒に行った二人は普段ライブに一緒に行く様な人ではなかった。
もちろんライブが最高だったのは言うまでもないが、全然違いを感じる異様なフロントエリアに妙な興奮も覚えた一夜だった。
"When I Was A King" from「MONOEYES Cold Reaction Tour 2015 at Studio Coast」
前置きが序論くらい長くなった。
衝動的に始まった軌跡のバンドは、過去も現在も巻き込んで、今パワフルでメロディアスなロックとして、多くの人の心で響いた。
その第2章としての今回のアルバム'Dim The Lights' 。灯りを消そうという意味の言葉を冠にどんな音が流れるか。
今年の夏は既に元オアシス、リアム・ギャラガーの新曲に一年分ワクワクしていて、期待通りのロックソングに嬉しさで震えていたが、今は多分このアルバム'Dim The Lights'の一曲が今年の僕のベストトラックになるだろうと思う。
長く待って実現しないとも思ったリアムの新しい音はやはり良かった。
でもいつだって側にいた細美の声はやっぱりそれ以上に僕には良かったのだ。
MONOEYES 'Dim The Lights'
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昨年の10月に先行で発売になった2nd EPの’Get Up’の時点で少し予兆はあったのかもしれない。
前述の1stアルバムの曲とは一線を引いた艶やかなミドルチューン。
エネルギッシュさをいったん冷まし、ノスタルジーを纏い漂う様なメロディーに、語りかける様な細美の声。
艶やかな細美の声が最も響きやすい鉄板の型であり、シンプルな構成とグッドメロディーに意表をつかれながらも、心を奪われた。
MONOEYES - Get Up(Music Video)
その空気感はこのアルバムへと地続きになっていた。
ラウドな重さパンクな速さよりも、その音がどう響くか・どう届けるかを考え抜き丹念に紡がれた音。
変化球ってほどトリッキーに変化はしてないが、よりリスナーにどう作用するかを考えられたストレート。
メロディックさをベースに、キャッチーさとオルタナさ、ユニークさとストイックさ、ロマンチックとニヒリスティックを巧みに出し入れして、単なる直球のロックではない七色のストレートを効果的に魅せる。
先行でPVが公開された’Free Throw’も、ノイジーなギター中心のサウンド中に美しい瞬間をいくつも作り、太いグルーヴも晴れやかに聴かせるさりげなさすら感じた。
ストレートなロックサウンドの力強さ、だがそれがわずかに揺らめきながら別の色を出していく色彩が美しい。
MONOEYES - Free Throw(Music Video)
Two Little Fishes
そしてアルバムを象徴する様なキラーチューンの’Two Little Fishes’。
僕はあっさりといつも簡単に心を奪われるこういう曲に。
本当に出会う事が少ない、一曲でアルバム一枚分の価値があると思えるキラーソング。
MONOEYES - Two Little Fishes(Music Video)
フックの効いたアンセミックでメロディアスなギター。
ロマンチックなメッセージを彩る陽性な空気に満たされた音空間。
数々のグッドメロディーで味わった胸が締め付けられる様な感覚は、思わずうなずいてしまうものだ。
いつまでも耳に鮮やかで、包まれる様な抱擁感は、今までのモノアイズにはないものだった。
10年前に聞いたら、少し違う印象にもなったのかもしれない。
多分僕も少し、必要のない火を消して、語らいたい様な時なのかもしれない。
きっと心に燃え盛る炎ってわけではなく、遠く彼方のベテルギウスの輝きの様なわけでもなく、キャンドルライトの美しさの様なメロディーが詰まっているアルバム。
揺蕩っていて揺れていて、一曲一曲火をくべられる焚き木を囲んでいるような語らいの場。
必要以上の灯りはいったん消して、それでもまだ喋っていよう。
そんな言葉を感じられるようなモノアイズの第2幕だった。
間違いなくそれはここまでの過去を心に留めながらの事であり、それでいて何しろ一緒に肩を並べて歌いやすいと思えるのは、バンドに自らを投影しやすい=身近な魅力を絶えずに持っているからだと言えるのだと思う。
開幕の①Leaving Without Usの浸透感あるロックサウンドも素晴らしいし、随一のエッジのロック⑤Reasons、スコットボーカルの③Roxette、⑥Borders & Walls、⑩Carry Your Torch、ラストを締めくくるに⑫3, 2, 1 Go。
どれも長く触れていたい曲なので、後篇で全曲レビューします。
是非そちらも、ご覧いただければ幸いです。
それではまた。
後篇はここに!↓↓