ブラウン管の向こうから届く絶妙な映画たち
映画を観る。
映画館ではなく、家で。
レンタルDVDでもオンデマンドもなく、テレビ放送で。
テレ東の午後を始め、BSで深夜やってるのを撮っといて後で見たり、金曜ロードショーとかを撮り貯めたり。
おかげで我が家のハードディスクは名作映画で一杯だ。
ジブリなんかもうすぐ全部揃うはず。
映画は特に、なのだけど、どうも僕の場合は郷愁に駆られるというか、新しいものよりちょっと前の物を見逃してる感がメチャクチャ強い。
なんかの告知とかアニバーサリー的タイミングで唐突にテレビでやってるちょっと前の映画。
それが僕にとってアツい出会いだったりする、ちょっとそれを文章におこしてみるレビューをつらつらと書いて行きます。
今回は2004年の映画「コラテラル」を観た。
暗殺者の悪役トム・クルーズとタクシードライバー役ジェイミー・フォックスのドラマと掛け合いは見応えあったし、何よりオーディオスレイヴの曲そしてクリスコーネルの声が心を打った。
ブラウン管の向こうから届く映画と音楽に想いを馳せてその1。
概要
2004年に公開になったコラテラル。
主演はトム・クルーズで、トム・クルーズの経歴的には'ラスト・サムライ'の後で、'宇宙戦争'の前の映画だ。
殺し屋の悪役で主役をはるトム・クルーズが注目を集めた。
もう1人の主役はジェイミー・フォックス。
同2004年のレイチャールズを描いた映画「Ray」でアカデミー主演男優賞を獲得し、世界に名を広めた。
更にはこの「コラテラル」でも助演男優賞にもノミネートしていてキャリアを見てもノリに乗った時期と言っていいのかもしれない。
確かに全く嫌味のない演じ方で物凄い心に残っている。
登場人物が少ないからこそ、必然的にこの二人が物語そして映像の中心になる。
映り方も会話もすごく塩梅のいいコンビ。
この掛け合いこそがこの映画の醍醐味だった。
あらすじは
ロスの街でもう10年以上、タクシードライバーをしているマックス(ジェイミー・フォックス)は、自らリムジンサービスの会社を立ち上げる事を夢に、資金を貯めるためこの仕事をしている。
繋ぎである仕事で会社や社会に文句はありつつも、街を知り尽くした知識と抜群の人当たりの良さを活かし、優良なドライバーとして本人もその仕事を楽しんでいて、ロスの街に溶け込んでいる様だった。
今日もふと乗せた女性アニー(ジェイダ・ピンケット=スミス)と会話を楽しむ。紳士的でウィットなその会話は彼女を楽しませ、笑顔の裏にある悩みを打ち明けさせる。
彼女は検事で、大きな裁判を控えている様で不安を抱えていた。
真摯になって聴くマックスにアニーは信頼を寄せ、自身の名刺を渡し、困ったら必ず力になると告げタクシーを降りていく。
僅かな時間で2人は友人となった。
これもタクシードライバーの仕事の醍醐味なんだろう。
いい仕事をした独特の心地良さの中、アニーが入って行ったビルから入れ違いで出てきた銀髪のスーツの男性を乗せる。
カチッとしたスーツにアタッシュケースを持ち、忙しない様子の男性ヴィンセント(トム・クルーズ)。
ロスの街を人へ関心がないから嫌いだ、という男は街に馴染んでいる様でどこか異質な物も感じた。
気さくな様でどこか危うい。
そんなヴィンセントもマックスに興味を抱き、そしてその道を知り尽くしたロスの街の達人っぷりに惚れ込み、一晩自分の仕事の為、貸し切れないかと申し出る。
会社として、規則違反ではあるが、600ドルという魅惑的な金額提示にマックスは折れ、一晩ヴィンセントのドライバーとなる。
最初の目的地につき、ヴィンセントはビルの中に仕事をしに行く。
待たされたマックスは車内でサンドイッチを頬張りながら大好きなリムジンのカタログを眺めていると、突如ボンネットに何かが落ちてくる。
それは男の死体だった。
ヴィンセントが降りてくる。
警察に通報しようとするマックスを制し、死体をトランクに入れて次の目的地へ行けと言う。
ヴィンセントは殺し屋だったのだ。
鮮やかに脅されたマックスは、仕方なくトランクに死体を入れ、運転席へと乗り込む。
何事もなかったかのように後部座席に座るヴィンセント。
こうして2人の奇妙なドライブは始まったのだ。
感想 最高のタクシー物語
最初のアニーとマックスの絡みからとても良いスタートの映画。
マックスの人当たりの良さに引き込まれるし、ちょっと淡く暖かくなるような掛け合いで既にほっこりする。
もちろんその全てがタクシーの中のシーンで、表情がとても強調されるし、お互いの視線も合わずに会話が出来る空間は、凄く見ていて引き込まれるカットだった。
それがこの映画の大半のシーンを占めるのだ。
登場人物も多くなく、コンパクトに一人一人のキャラが立った感じ。
概ね気さくだけど美学を持った殺し屋のヴィンセント。
人当たり良く粋な男だけど、普通でしかないドライバーのマックス。
殺し屋としての一面を見せた時のマックスは従う他ないんだが、それ以外にフラットな状態で会話をする時には粋な返しをしたりと奇妙な関係になる。
ヴィンセントもそれを楽しんでいるようだ。
マックスはギリギリの精神状態の中、自分のアイデンティティーを賭けて喋ってる感じが出る。
そのギリギリの奇妙な関係は何度か決壊しそうになりながらも、不運さを胸にストーリーを続けて行く。
最初にヴィンセントは貸切を持ちかけた時点から、行けるなコイツと思ってたのか。と言うよりは不思議な話ではあるが、マックスが一緒にいて面白かったんじゃないかと思った。
仕事(殺し)の合間のブレイクタイムさながらに車内で喋るヴィンセントと、それにハラハラでも応えるマックスの姿は、そう思えてしまった。
それでもアニーだけは駄目だよな。
全体のコントラストとして、全てが夜のシーンである。
ロスの街。
栄えてるところ、静かなところ。
同じ夜色ではあるけど、濃淡と静動でロスの夜を描き出す。
燃え上がるようなバチバチとしたシーンの後、漂うように街を行くシーンに、初めて前面にオーディオスレイヴの曲が出て来る。
絶妙のタイミングに絶妙の曲選び。これが今の僕にはハイライトだった。
ヘヴィかつメロウなロックグルーヴ。太くしなる音の重力を存分に感じるサウンドとメロディー。
そして龍の咆哮の様に、神々しく高鳴るクリスコーネルの声。
圧倒されるが決してうるさくない。柔も剛も制されるような為す術のない高次の音。
極めて自然に映画の光景に溶け込んでいながら、前面に出てきた時の存在感は計り知れなかった。
訃報からまだ日が経ってない事もあり、クリスコーネルと不意に出会えた嬉しさ、そして豪華なPVにすら思える映画の映像美と世界観が、引き立て合いながら溶けて混ざって行く様な高次の融和で、ソファーで徐々にグデッとなった背筋が急に伸びた一瞬だった。
掛け合いを楽しんでいる内に、アッと言う間にラストシーンまで進んでいた。
唐突なラストシーンも、喪失感持ったままそれすらも歯車に回るロスの街を象徴するかの様でスゴク好き。
是非最後まで見てみてほしい。
コラテラル、ブラウン管の向こうから届いた夜のロスの街はとても暗く美しかった。
トム・クルーズもジェイミー・フォックスもクリス・コーネルも調カッコいい。
十分に堪能出来るいい映画でした。
それではまた別の記事で。