イングランド黄金世代の象徴、フランク・ランパードに想いを馳せて
最初は何でこんなに大物扱いされているんだろうと思った選手だった。
第一印象ってのは無責任なものだ。
派手な技術=巧いって図式は単純だけど、フットボールは僕らの考えよりもう少し複雑なのだ。
TOP 10: Frank Lampard Goals | Chelsea Tops
フランク・ランパードは上手かった。
総合的にフットボーラーとしてのあらゆる面を複合して言って、とてつもなく巧い選手だった。今ではそう思う。
ランパードの上手さをわかんない奴はフットボールを知らない、逆にランパードを巧いって言っとけばフットボールをわかっていると知ったかぶれる様な、そんなブランド感すら僕の周りのサッカーフリークには漂っていた。気品があるよね。
どこがどう巧いのだろう。
それを理解することは現代のフットボールへの理解にすらつながるのだと思う。
アメリカの地で引退を発表した彼に、今日は想いを馳せる。
素敵な暇つぶしになれば幸い。
プレミアのレジェンド
お父さんも叔父さんもイングランドで名を馳せた名選手だったフランク・ランパード。
サッカー名家ならではの苦悩は若きフランクにも絶賛襲ってきた。
1995年、育成の名門ウェストハムでそのキャリアをスタートさせレンタル先のスウォンジーで頭角を表すが、レンタルバックした当時の監督は叔父レドナップで、コーチは父ランパード・シニアとなれば、当然雑音の量も計り知れないものがあった。
もちろんイングランド代表にも選ばれる若きホープではあったが、やっかみや批判も絶えず、正当な評価が下しにくい環境で、徐々に名を上げた選手であった。
いま考えると、お父さんも叔父さんも彼の才能を誰にも渡したくなかったのだろう。
批判を覚悟してまで囲い込みたくなる理由は、補強では手に入らない唯一の才能が彼に備わっていたからだ。
ただ輝きは放つも、栄光は手に入れられない現状は打破できず、レドナップとランパード・シニアが解任されたタイミングで、ランパードは2001年にチェルシー移籍を決断する。
親族の呪縛から解き放たれたサクセスストーリーにも見える、心機一転の移籍。
関係が悪かった様には見えないが、ようやく1人のフットボーラーとして視野に入った時に理解できるランパードの凄さは、批判を繰り返してきた野郎どもの色眼鏡を恥じさせるには充分だった。
チェルシーが払った移籍金は25億円前後だと言うが、後のアブラモビッチバブルによるオイルマネーで高騰した移籍金から比べると少なく感じる。
チェルシーは黄金時代の中心となるレジェンドを、オイルマネー以前に安価で手に入れていたのだ。
ランパードは初年度から才能を爆発させる。
日本のファンからすればこの急に名前が出てきた感も、ランパードの良さを解れない人の多さにも繋がっているのかもしれない。
試合に出続け、最も走り、最もボールに触り、MFとは思えないペースで得点を決めつづけた。
ついには何とGKの選手が保持していたプレミアリーグ連続試合出場の記録を、MFが更新するという離れ業を成し遂げた。しかも途切れたのはウイルス性の病気よる欠場。
累積警告も怪我もなかった超人的な活躍。
2003年以降アブラモビッチによるオイルマネー流入の象徴となったチェルシーにおいて、数々のスタープレーヤーがチェルシーでプレーしたが、センターハーフだけは獲らなかった。
獲る必要がなかったのだ。
それほどまでに絶対的な存在として、2013年シーズンまでの12年間のプレーで500試合出場150ゴール近くという不屈の鉄人ぶりを見せたのだ。
ここまででも十分凄いんだが、どうにも数字だけではピンとこない人もいる。
そして彼のプレースタイルはその数字の奥にこそ真実がある。
それを紐解くのがファンとしては楽しみな瞬間でもあるのだ。
イングランドのフットボーラ―
単純に印象だけ言えば、ミスがない技術と柔軟性と持続力のある身のこなし。
ドリブルで突破もすれば、リズムを取るパスも出しながらスルーパスも繰り出し、ミドルシュートも打つ。
見れば見る程、何でもできるのだ彼は。
総合的な技術を、チームの一員として走り続けながら、適所で発揮していく。
その複合的な技術眼が最大の長所だった。
ボックストゥボックスという長い距離をプレーエリアとして走り続けながら、攻守において締めるところを締める。
DFラインまで戻って守備に参加したかと思うと、最前線でクロスに合わせてたりする。
それで500試合くらい連続で出てたのだ。
彼の最大のライバルであり戦友でもあったジェラードに想いを馳せた時にも触れたが、
その得点力はランパードも飛びぬけた物があった。
毎年二ケタには乗せるゴール数。
MF、しかもボランチの位置の選手が2~3試合に1点取っているという事だ。
ミドルシュートもあれば、ボックスの中に侵入して受け手に回る様なゴールもあり、どうすれば点を取れるか知っているかのように多彩な得点感覚。
これこそが、イングランドにおけるセンターハーフの完成形であるのだと思う。
最初の失礼な第一印象の原因は、僕が知らなかっただけだ。
そういうサッカーの仕方に、そういう得点の取り方に。
何世代にも渡り、モチーフになり続ける様なレジェンドとして、彼が開けた風穴から若い才能達が現れたのは当然だった。
センターハーフというポジションの理解を世界中で急速に高めた存在でもあったのだ。
永遠に模範的な鉄人
ランパードの不屈の鉄人ぶりは、敵味方問わずリスペクトされ、讃えられる存在となった。
キャリアの初期のしがらみなど、あまり話題に上がらなくなるほどの正しい物語だった。
彼に現代フットボールの本質を見たファンは多いはずだ。
僅かでも弱点があれば、その欠点が何十倍にも見えるように批判を広げていく昨今でも、彼は賞賛され続けるだろう。
批判してる方がダセぇ。
そういうそもそも論的な方向に持っていけるだけの説得力のある数字と数字以上のプレーインパクト。
こういう選手が今後も出てくれば、世界すらちょっと良くなる気がする。
さすがに疲れただろう、と思っていても移籍先のアメリカでハットトリックをかましたりしている。
やっぱりランパードは凄いのだ。
2017年に清々しいまでの前向きな幕引きをしたランパード。
その1年後には監督として復帰。2019年には故郷チェルシーに監督として戻ってきた。
その一報を聴いた時、どんな選手よりも心強く思えたのだった。
【Football soundtrack theme Lampard】
Tinted Windows ’We Get Something’