Hi-STANDARD "The Gift Tour Fainal inさいたまスーパーアリーナ" ライブレポート
【前編はコチラ】
ライブは中盤
演奏力に魅せられたピンク・パンサーのテーマを終え、浮遊感すらある陶酔したオーディエンスに再び火をつけるパンクチューンを2曲続ける。
11曲目"Nothing"と12曲目"Going Crazy"だ。
割りとレア目なナンバー、そしてコアな魅力をもつナンバーの選択に、観客のボルテージも上がる。
ワンマンのツアーならではの”アツめ”の選曲を噛み締めつつ、アグレッシブなエモーションに身を任せる。
またもMCに入り、難波も何か喋りたいけど、言葉にならなくて「ナンちゃん通訳がいるんだよ!」「マジで、ホントに、ヤバい、かかってこいよ、しか言えないんだから」とケンに突っ込まれる。
「ホントはボーカルだってやだったの」「楽だぜー?ベースだけなら」って難波のさらりと衝撃的な発言があったり、「喋りが上手いバンドが多すぎんだよ、曲で勝負しろってんだ」「でもそれってケンバンドの事じゃね?」と決まってんだか決まってないんだかわからないケンの言葉があったりと、笑いに包まれるステージ。
めちゃくちゃかっこいいパンクス達の素の姿は、逆に今でしか見ることが出来ないもので、それを共有している事があまりにも自然で、またしても一緒に笑い合える。
さんざん喋り倒した後、Growing Upへのアンサーソング13曲目"We're All Grown Up"をスタート。
キャッチーなメロディーに乗せ、今ここに居るハイスタが、あの頃のグローイングアップへの答えを歌う。
少し前にはあり得なかったストーリーに、さっきの難波じゃないが、「色んな事あるもんだな」とつぶやきたくなるような、感慨深さも覚える。
軽く3人で目配せをしてケンのギターパフォーマンスがスタート。
パンクギタリスト横山健の真髄の詰まった数分間のパフォーマンス。
パンクフレーズではなくギタリストとして純度の高い技術を込めた艷やかで憂いのある音。
歓声を送りつつも圧倒的な演奏に目も心も奪われる。
そのまま新アルバムのインストナンバー14曲目"Pacific Sun"へ。
メタリックなギターの応酬から、大胆にこぼれ落ちてくるような哀愁感じる音色を感じつつ、次第にバンド・サウンドが合流しその中でも全面にケンのギターを堪能できる。
今のハイスタの大きな武器、その一つがケンのギターであると、誇らしげに感じるナンバーだった。
その憂いをステージに帯びさせたまま、15曲目"California Dreamin'"へ。
木枯らしの様なギターから、メロコアの嵐の様なサウンドが吹き荒れフロントエリアに渦巻いていく。
僕らはその風に身を任せてればいい。
カバー曲だが彼ら屈指の緩急とメランコリックさに、ハイスタの中でももう一度時代を超え、これからも輝くメロコアアンセムだ。
"Fighting Fists,Angry Soul. Never Lose My Fighting Fists. My Dear punks, Angry Boys. Never Lose My Fighting Fists."難波の声とともにその場にいる全員が拳を突き上げた16曲目"Fighting Fists,Angry Soul"。
Hi-STANDARD [[FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL]] PV ハイスタ
決して拳を降ろさず、それでも全員が笑顔で歌うハイスタとそのファンによる魂の歌。
ファニーなリズムで怒りを乗せて歌っちまう、そういう衝動的な楽しみが積み重なってハイスタのスタイルになっているのだ。
そう確認をするような周りの笑顔。この感触が他では味わえないハイスタのライブなのだ。
MCではツネが素朴なメッセージ。
「今日来れなかった人に凄かったんだぜって言えるような日にしたい」
今や何もかもデジタルで一瞬でシェアされる時代でも、その人の熱意とか興奮とかは何となく伝わるもんだ。これは人に語りたい夜だ。心に刻みつけるようにもう少し前のめりになる。
「ここまで来たら、もうこの3人の内誰かがくたばるまで、ハイスタはたたまねぇ!」そうケンが高らかに叫び、この日一番の歓声が起こる。
急に難波が「しし座流星群すごいらしいよ、願い事っていいよね、しよう!」と唐突に振ると、少し暗くなった灯りと、そこにスマホのライトで星空の中にいるようなアリーナ。
もちろん歌われるのは17曲目"Starry Night"
歪んだリフ、そしてドキドキワクワクするような流星群の中にいるような音世界。
爆音の中でも綺羅星の様に光る難波の声はちょっと枯れ気味でも美しい。
たくさん泣いてる人がいたけど最終的には顔を上げ彼らの姿を見据える。
願い事は上を向いている方が叶うもんだ。
ケンがリードボーカルを取ると宣言した次の曲の前に、思いつきから懐かしのミニー・リパートンのLoving Youを披露。
超高音のボーカルに面白さもありつつ、力強さすら感じるこのバランスがハイスタのそれだ。
そのままケンのリードボーカルで18曲目"The Sound Of Secret Mind"へ。
Hi-STANDARD - The Sound Of Secret Mind [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
難波の声がハイスタのアイデンティティーの一端を担い、太陽のような輝きをもたらしているのは凄い。
ケンの声は、もっとよりパンクでささくれていてアグレッシブだ。
冒頭からサビ前まで、パンキッシュに歌い上げ、サビで「ナンちゃん!」と受け渡す。
どちらの声もハイスタであり、どちらも堪能できるこのアツい展開に、誰もが喜びに溢れていた。
いよいよ終盤に入る。
「今が一番楽しい」そう語る難波。
彼らの中でも様々な障壁がなくなり、お互いに手を差し伸べる事があまりにも自然になった。
仲の良い姿は見ててもわかると同時に、ここまでのパワーを見て、仲の良いハイスタは最強なのだと、得体の知れない自信をここにいるみんなが持っているような感じすらある。
このまま時間が止まればいいと、そう願うような19曲目"Stop The Time"
何故か最も懐かしさを感じるような趣すらあるグッドメロディーがキャッチーに響く。
終盤にこの曲を持ってくる時点で心に来るし、誰もが口ずさみたくなる様な親しみやすさが、あっという間に心を染み入って琴線に触れていく。
MCも終盤に入り、今日ここまで共にライブをしたバンドへの感謝を述べる。
ステージ横のダイスケはんに感謝し、呼び入れる。
去り際にあいつ頭おかしいとジェスチャーを入れ、コントのように中々出ていかない。
最後にはツネがメガネをあげるような仕草から、3人からスティックとピックをもらって「1万円から!」と観客に呼びかけ、「この転売屋!」と難波に突っ込まれていた。
ホルモンのステージの時にも溢れるハイスタ愛が伝わってきたが、それは今全国にいるバンドももちろんそうで、今回ツアーで対バンしなかったバンドでも一緒に回りたかったはずだ。
「そんなバンドがたくさん今、存在してるってことが嬉しい」と難波。
「先輩面してたらやられるし、対バンがいいと気合入る。今日は特に入ってるよ!」とケンも語る。
ハイスタから脈々と受け継がれるパンクの灯は、彼らがもう一度シーンに戻ってきたことで、彼らだけでなく数々のバンド全体として大きく盛り上がっていくかもしれない。
20曲目"STAY GOLD"
Hi-STANDARD - Stay Gold [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
何度聴いても、やはり特別な一曲に、地鳴りのような怒号から、空間をごと震わせる歌声がアリーナに響く。
パンクの灯はこの歌と共に、消えずにキッズの心に宿ってきた。
今、それを目の前で聴ける事の衝撃は、ここに居合わせた人達の生涯の宝物になる事は決定的で、これからも何度でもその瞬間のために、歩いていけるのだ。
「一緒に歌うぞ!」と"オーオーオオオオオー!"と合唱を観客に要求する。
するとケンは「一昨日の下北シェルターの方がパンチあったぜ!何となく合わせときゃ曲始まると思ってんだろ?もう一回やってこれより大きくなんなきゃライブはここでおしまいです!」と煽る。
そうするとホントに3倍くらいになった声。それでいいんだ、と親指を立て、21曲目"Free"が始まる。
大合唱の中、それよりも明るくアリーナを照らすような難波の声。
導かれる様に天空へと大声を全員で飛ばす。
今年一番の大声をハイスタと共に出す。腹から声を出すって良いものだ。
聞き覚えのあるリズムに、ジャンプが波及していく。
これ以上飛べないっていう大ジャンプの波の中、22曲目"Maximum OverDrive"へ。
Hi-STANDARD - Maximum Overdrive [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
パンク史上最高のリフを炸裂させ、コミカルで滑らかなベースラインで惹きつけ、最大限のバンドサウンドになって爆発させる。
もう2時間以上やって限界ギリギリでも、さらにアドレナリンをひねり出せるパンクの底力。
所狭しと飛び跳ねるオーディエンスとハチャメチャにぶつかりながら、突き上げた腕の先に彼ら3人が見える。
これがハイスタのパンクの光景だ。
本編最後の曲へ。
今回の13公演のライブのセトリは全てオープニングの曲が違うようだ。
作り込まれた、というかもう一度彼ら自身がハイスタと向き合って、やりたい曲やってみたいチャレンジがたくさんあったという事なんだろう。
彼らのパンクは単純な様で実に多彩で多様なのだ。
今年一年、ハイスタを誰よりも楽しんだ3人。また演ろうと約束をするように23曲目"Brand New Sunset"へ。
Hi-STANDARD - Maximum Overdrive [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
難波の声が掠れれば、ケンが助ける。
鮮やかな夕日を見ている様な、ギターサウンドのオレンジ色の音色は今年一番の色彩だった。
アンコール
彼らがはけても、鳴り止まない歓声でアンコールへ。
少し間をおいた後、3人が戻ってくる。
まだ言ってなかったとばかりにPIZZA OF DEATHへの感謝を述べる。
ケンが支えてきた事に対する難波の感謝は、心からのものだったんだろうと素直に思う。
アンコール一発目、24曲目は"Another Starting Line"だ。
Hi-STANDARD- ANOTHER STARTING LINE- Full ver.(OFFICIAL VIDEO)
新しいアンセムが、僕らのもとに急に届けられたのは昨年。
そこから時計の針は動き出し、タイムレスでセピア色しか知らなかった僕らのハイスタにも色がついた。
きっとこの先も、そういうストーリーと共に、ずっと残るんであろう名曲。
アンコールには最適だ。
そのまま歪ませたサウンドを繰り返し、気付いたオーディエンスから歓声が上がる。
大分焦らした後に滑り出した25曲目"Teenagers Are All Assholes"。
Hi-STANDARD - Teenagers Are All Assholes [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
どの位の10代がハイスタを聴いているのか、と思ったが、この日数多くすれ違ったキッズ達を見て羨ましくも頼もしくもなった。
しなりの強いベースラインに弾ける様にモッシュしダイブし、声を合わせて叫ぶ。
これが今の10代にも脈々と受け継がれていくのだ。
クリスマスの予定の話になり、ケンの危ない話題の触れそうになり、「ケンくんモテるから、男にね」と難波がフォローしたりと自然体なまま、ツネが鈴を鳴らす。
「もっかいアレやっちゃおうか、うん!」と難波の呼びかけに応え、観客がスマホのライトで星空を作る。
「このまま曲やんないでもいいなー」と感慨ふけるケンも居たが、ハイスタからのクリスマスプレゼント26曲目"Happy Xmas(War Is Over)"へ。
ジョンレノンの名曲を、彼ら色のメロコアカバーへ。
オーディエンスも共に歌う。
美しい光景の中、何度何度もコーラスを繰り返し、終わることを惜しむように共に声を張り上げた。
もう終わりは近いのだ。
27曲目"Can't Help Falling in Love"
ハイスタの大団円には欠かせない、エルビスのカバー。
「さっきツネちゃんも言ってたけど、今日これなかったやつには今日凄かったんだぜって少し上から目線で言ってやれよ!」と言うケンの荘厳なギターから、「愛さずににはられない」とお決まりのセリフを言う難波の”Go!”の合図で、パンクサウンドが壮大に幕を開ける。
最後の力を振り絞って、声を上げ、ギターを鳴らし、ドラムを叩く3人は、やっぱすげぇ、と感嘆してしまう。
最後の最後になって、ここまでハードでありながら圧倒的華を感じさせるのは、やはりこの3人しかいないのだ。
「やっぱ、まだ終われないよね」と難波。
最後の最後に選んだのは28曲目"Mosh Under The Rainbow"。
あの日見た光景の様に、大きな輪を作り肩を組んで歌う。
ずっとずっと最後はこうだった。
笑顔と涙の嵐みたいなライブの最後には、虹とともに、”何か新しいことが僕らを待っている”そう思える様な未来を共に持った達成感。
また上を向きながら、新しい何かを自然と探せるような、そんなストーリーが彼らのライブにはあった。
何度も繰り返し歌い、踊り、笑う。
天国のように幸せな光景は客電にライトアップされ、幻想的ですらあった。
ツネが倒れ込み、難波もフラフラで、ケンが何度もピックを投げ、頭を下げる。
今回のツアーは最高の終わりを迎えた。
ように見えた。
会場から出ようとしている所に、大歓声が上がる。
3人が挨拶しに来たのかなと、脚を止め振り返ると、ビジョンに映る3人はなんと楽器持ってる。
そのままあっという間に演奏されたのは29曲目"My Heart Feels So Free"
疾風のようなバンドサウンドが、もう一度オーディエンスの目を覚まし、火をつけていく。
全員がダッシュで戻り、フロントエリアに押し寄せもうエリアもアリーナもスタンドも関係ない。
これが狙いだったのか、思いつきなのかはわからないが、まさに自由に解き放たれた曲は、延長戦というより、フリーライブの様なカオスでメチャクチャな空間をあっという間に作り上げた。
本当の自由な瞬間。その根本には圧倒的な楽しさから来る純粋なエネルギーに満ち溢れていた。
本当に最後の最後に彼らが選んだ曲は30曲目"Turning Back"
時間の関係で、短い曲に絞ったのかもしれない。
それでも「俺達は戻ってきた」と最後までそう言い通したかったメッセージ。
更にメイキング・ザ・ロードのオープニングトラックである事から考えても、これからの新しい道の為の、決意表明の様に思えてならない。
本当にわずか3分くらいでギュッと2曲だけやって帰っていった。
どこか”モッシュ~”で終わった時は休止前最後のエアジャムを思い描いてしまったのも事実だった。
彼らにも同じような画が浮かんで、自由と帰還をテーマにしたこの2曲を、敢えて物語の最後にねじ込んだのかもしれない。
彼らの言う、何か面白いこと、それを最後の最後まで衝撃的に表現した、すげえストーリーだった。
喜びの歌 ハイスタの歌
全30曲。
2時間半にも及ぶライブをもって、このツアーは完遂された。
どの曲にもそれぞれの想い出があり、きっとベストトラックを一人一人に聞いたら、多分挙がらない曲はないんじゃないかと思う。
それほどまでに全てが彼らと僕らの喜びに満ちあふれていた。
またスローペースでも、彼らはやってくる。そう約束したのだ。
僕個人的にはエアジャム2011で見たときよりも、ファットレックフェスで見た時よりも、彼ら3人の位置が少し近く感じた。
寄り添うように小さくなったトライアングルは、きっとこれまでよりも強固で自由なものになった。
そう確信を得られた夜だった。
過去を知る人がめちゃめちゃ羨ましかったハイスタが、今ここにいる。
そしてこれから僕らは未来をハイスタとともに生きるのである。