リバプールの英雄に想いを馳せて 2019.10.17 リライト
大型〇〇という言葉は、諸々の場面で使える言葉だ。
そのままサイズがデカいって意味でもあるし、スケールの大きさみたいな意味で使われる事ももある。
さらにはそのどちらも、っていうダブルミーニングの場合もある。
野球のドラフト一位の大型新人の身長が高いなんて話は良くある話だ。
これはフットボールの世界でも良く使われる言葉でもある。
大型CBとか大型ストライカーとか。
ファンにとってはそのシルエットに期待が膨らむワードだ。
僕は数あるサッカー界の大型〇〇の中で最も期待感を煽るのは、’大型ボランチ’というケースだと思うのだ。
攻守の要所において、夢が広がる期待感と、こいつならピッチの全てを任せられるという安心感。
どちらも感じる魔法のフレーズだ。
今や監督となったスティーブン・ジェラードの名前を見て、そんなことを想った。
大型ボランチの言葉が安っぽくなるほど、英雄的な活躍をした時代を代表する名ボランチ。
リバプールという他のどのクラブにもない魅力をもった、伝統的かつオルタナティブなクラブにおいて、その唯一無二の大型ぶりでどの時代よりも赤く輝かせた歴史的な選手。
今回はそんなスティーブン・ジェラードに想いを馳せる。
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ジェラードのプレーヤーレビュー
大型、大型なんていいつつ、ジェラードの身長を調べたら183cmしかない。
フットボーラーとしては少し高い位。
足の長さとかスタイルの良さに目を惹かれてそう思っていたのかもしれない。
でも大型たる所以は身長だけではないのだ。
1980年生まれのジェラードは幼少からリバプールとともに育った。
ドラマチックで鮮烈な出来事の多いリバプールというチームは熱狂的なファンが多いが、ジェラードの父親もそうであり、ジェラード本人もリバプールに夢を与えられた少年だった。
サッカーを始めたスティーブン少年はリバプールのアカデミーに入り、飛びぬけたスケールと更なる大器を感じさせるプレーを見せ18歳の時にトップデビューする。
デビュー当時は右サイドバックだったが、その後ボランチにコンバートされ才能が開花。
2001年には早くも主力としてカップ戦三冠を達成。
プレミア屈指のボランチとしてボックス・トゥ・ボックスの運動量、剛毅な肉体からは考えられないテクニック、そして赤く燃える闘志で名を馳せ、リヴァプールの顔となり、名タレントが中盤に揃っていた黄金時代のイングランド代表にも選ばれる。
その抜群の存在感とカリスマ性を持って23歳の若さでジェラードはリバプールのキャプテンに任命される。これが彼のキャリアで大きな転機になった。
若いジェラードは時に激情的なプレーが行き過ぎてチームにマイナスな部分があったが、大きな責任感を背に一皮むけた威圧感を披露し、激情をチームに還元する闘志あふれるキャプテンシーは凄みすらあった。
レアルやチェルシーが彼の能力を高く買い、とてつもない札束で彼を招き入れようとしたが、その全てのオファーをジェラードは断り続け、10年以上リヴァプールで主将を努め続けた。
僕ら世代で言えば、リヴァプール=ジェラードなのだ。
もちろん、順風満帆にリヴァプールに居続けたわけではない。
死闘の様な交渉の場もあったようで、クラブのフロントに不満が無かったわけではないようだ。
それでも2004年CLグループステージ最終節でのチームを、そしてリヴァプールのジェラード自身を救う強烈な2ゴールや、決勝を0-3ひっくり返したイスタンブールの奇跡。
その他も数々の勝負の場面でキャプテンらしい活躍をしてきた。
もちろん、逆にうまくいかないことだってあった。
イスタンブールの奇跡の2年後の決勝で、ACミランにリベンジを許したり、数多くのワールドクラスのチームメイトが来ては去り、プレミアリーグの優勝は1度もなく後数分で優勝を逃したこともあった。
だがそれでも彼はリヴァプールに居続ける事に、リヴァプールのユニフォームを来てキャプテンマークを巻き成功体験を積んだ事に、価値を見出した。
だからこそ強烈に美しく見えるし、最もドラマチックなチームだったリヴァプールの体現者として彼は英雄になったのだ。
プレースタイル
そのプレーヤーとしての能力は、もちろん身体能力もプレーの選択肢もその実現力も歴代トップレベルだった。
ずば抜けて凄いのがキックの力と精度。
長い脚を可動粋限界まで伸ばして使うジェラードのシュートはまるでバレーボールを蹴った様な弾速で飛んでいく。
糸を引くように、伸びがある弾道が、ボールに当たった瞬間破裂音がする様なフォームから繰り出される。大谷翔平のストレートより怖い。
芯を捉えるキックの技術と自分の身体を使いこなせる柔軟性ならではの武器だ。
そのキックのスピードと精度はボランチの位置からのダイナミックな展開にも活かされた。
攻撃のスイッチとして最高のスピードで相手の守備が整う前に先を取れる。
その攻撃的なセンスは攻撃的なポジションで起用されても活かされ、シーズンで20得点を記録したりハットトリックを記録したりしている。
一方守備の面では身体能力を大いに活かし、相手の攻撃を潰すクラッシャーにも跳ね返す壁にもなれる。
空中戦でも負けず、DFラインより後ろまで下がってタックルをかます事もしばしば。
紳士とはかけ離れた凶暴さ渦巻く最も戦いの激しいプレミアの守備という局面で、相手の攻撃陣にはその姿が何倍も大きく見える存在感を放ちつづけていた。
不敵なたたずまいの強面で睨みを効かせ、強烈な存在感のキャプテンとして、中盤で影響力を発揮し続けていた。
中盤の底のエリアを空間的にも精神的にも支配したのだ。
もしサッカーゲームとかの能力値の六角形みたいな数値化したグラフがあれば、その全てが最高値に近いスケールの大きい能力。
それが大型フットボーラー、ジェラードの魅力だった。
英雄の条件
それでもフットボールプレーヤーというのは数奇なもので、特筆すべき能力がいくつあっても時代に名を残せない選手もいる。
英雄には英雄にしか巡ってこない場面があり、その一瞬が切り取られ未来永劫残される。
そのヒーローになる準備をいつでも怠ってはいけないのだ。
とんでもない逆境の時に彼の元におあつらえ向きのボールが最も彼の力が発揮できる状況でこぼれてくる。
状況は難しい、ダイレクトでエリアの外から、死にもの狂いで身体に当てて阻止しようとするDFとGKのボール2,3個分の間を、彼らが触れないスピードのボールで狙う。
そんな場面のジェラードを僕は数回目撃した。実況の誇らしげなジェラードの声とともに、両手を広げ観客の元へメンバーを引き連れて走る。
その数回とも彼らしいゴールでネットを揺らしたジェラードは、その瞬間から僕にとって特別な選手になった。
それはリバプールのクラブを支えるファンも、その街に住む人にも特別な瞬間だった。
その後、彼のミスから優勝が零れ落ちても、孤高の英雄せず後押しを続けた。
チームにとっても街にとっても最重要の人物だったわけだ。
英雄には摩訶不思議な力がある。それは能力値のグラフの外の世界であり、だからフットボーラーを見るのはやめられないのだ。
フランチャイズプレーヤーとして輝き続けたリバプールでの役目を終え、新天地アメリカで現役を続けた彼は晴れ晴れとした顔をしていた。
「ここ(アメリカ)では街を歩いていても誰にも気づかれない。前の街では5分に一回立ち止まる必要があったからね」
新天地のピッチでは相変わらず気合の入った表情だったが、その時は柔和な笑顔でリラックスしていた。
一度ピリオドを打ち、こういうプレーヤーがもう一度帰ってくるのが心底嬉しいモノ。
スコットランドの地で新しいキャリアをスタートさせているが、再びリバプールの街にスーツを着て戻ってくるその日まで、彼の真っ赤な想い出は強烈に残り続ける。
【Football soundtrack theme Gerrard】
The Raconteurs ’Salute Your Solution’