再び中東の地に立ち、アジア最終予選8戦目に挑む
如何にカッコよく酷評するか
6/13、日本時間午後21時。比較的見やすい時間帯でのキックオフで見ている人も多かったんじゃないかと思う。
もう最終予選も8試合目であり、残す所3試合。まだ日本のW杯は決まっていない。
この試合でも決まることはない。
例年に比べて成績の悪さが際立つわけではなく、拮抗した混戦の展開になった今予選でも首位を走っている。
ただその混沌から抜け出すチャンスは幾度かあった上での混沌という所が、日本代表らしいストレスを孕んだドラマを見ている様な感覚もあるのも事実である。
シリア戦のパフォーマンスにコメントする人々がどうカッコよく酷評するか、みたいな数日間を過ごし、この試合を迎える。
香川・山口の怪我。新戦力への期待もありつつも、やや重苦しいムードでイラク戦のキックオフはあっさりと迫っていった。
立場の違う両チーム 等しく降りかかる酷暑
政治的不安からイラク本国での開催ではなく、お隣のイランでの開催となった今試合。
イラクはもうW杯への道は閉ざされている。その中でサッカーと関係ない自国の問題のせいでイランでの開催。今予選の彼ら選手たちのモチベーションは中々慮ることすら出来ない。
ただこの試合は若い選手が多く、未来へ向けた強化として捉えている様で、本気の日本は格好の相手だろう。
一方の日本は、同勝ち点の3つ巴の1位争いの中で唯一消化試合が一試合少なく、この試合で勝ち点を獲れば抜け出ることが出来る。
残りの試合がホームのオーストラリア戦、アウェイのサウジ戦という直接対決である事が、大きく心理的ネックになりながら、勝ち点3を狙いに行く戦いになった。
引き分けでも最悪の結果にはならない、負けてもまだ望みはある。この絶対に負けられないわけではない浮遊感が、少し漂っている雰囲気も選手から感じることは出来た。
ただ勝つだけです。その試合前の選手たちの発言に、リラックスはなく緊張感と疲労感を感じた人は少なくないはずだ。
イランのスタジアムはそんなに大きくない。
何故か最も暑いと言われる夕方のキックオフになったようだ。
常に35℃以上で湿度も低く、強い風は体感温度を下げる所か、熱風となり乾燥を促進していく。
その荒涼とした風景に不釣合いな程、長く不揃いな深い緑の芝は、球足を阻害し、サッカー選手にとってのオアシスにはなりそうになかった。
日本のファンの声も大きく響く中、選手たちは熱風の中に姿を現す。
リラックスとはかけ離れた強張った顔つきであった。
前半 先制 そしてブロック戦術
前回のシリア戦からスタメンをかなり大幅にいじってきた日本。
GK・DFラインは変わりないが、ダブルボランチに24歳・遠藤と20歳・井手口のリオ五輪コンビを配置。
トップ下に原口を置いて、FWの右に本田、左に久保できた。
センターの大迫は変わらない。
急造的な配置変換はもちろん信頼の置く香川と山口の負傷に起因してはいるが、上手くバランスをとり、控え選手も使いやすそうな配置であると印象を受けた。
前線、中盤、控えの選手の誰を入れようがバランスを保てる形で、ハマりさえすれば面白そうな配置であった。
それがうまく作用した前半の前半で日本はペースを掴む。
暑さも考慮して前線からプレスには行かないが、ダブルボランチの若い二人が積極的にボールにアタックし、奪取する場面が多く見られる。
奪ったボールも本田の部分でボールが収まり、あっさりと前を向きDFと対峙できるスキルがあるので、連動的に周りを使える。
速さは皆無だがこういう部分では上手さと強さを見せ、酒井とのコンビネーションでチャンスを作っていく。
また中央からも、井手口・遠藤・原口がもち上がり相手のバイタルエリアまで侵入する。
特に原口は中央センターサークル付近からバイタルエリアの中距離おかまいなしに何度もドリブルで持ち上がり、スピードとテクニックを活かす部分を見せた。
サイドを起点とするダイアゴナルな斜めの細かいパス交換から大迫が粘り、原口のシュートでCKを獲得すると、本田のピンポイントのボールに合せた大迫のバックヘッドで前半の15分程で先制点を奪った。
躍動した攻撃から当たり前の様に取った先制点は、大きく精神的余裕をもたらした。
事実その後も、長短のパスを織り交ぜながらゴールに迫るシーンは10分程続いた。
しばらくしてイラクも落ち着きを取り戻し、ボールを持てる様になる。
風上のイラクは高いアーリークロスからチャンスを作り出し、日本のDF陣を慌てさせるシーンを作る。
ここで日本はブロックを敷いて守りに入る姿勢を強めた。というよりはまず最初の疲労感が襲ってきたのか、ボランチの部分で反応が遅れバイタルエリアからサイドを繰り返し使われるシーンが増え、引かざるを得なくなった時間帯が続く。
吉田と昌子のスピーディーな対応で失点こそなかったが、これをしばらく断ち切れなかった。
長い芝も、風下な状況も、酷暑すらも、全てがイラクに味方している様な地獄の様な時間。
この後ももっと危機的状況は訪れるが、この時点ですでに物語の結末に向けて歯車回り始めていた。
セカンドボールを拾われる、ピッチに苦しみ100点満点ではないクリアが風に戻される、そこでデュエルだデュエルだというのだろうが大地と風とは戦えなかった。
ならば知性あるプレーで流れを落ち着かせたかったが、それすらも困難なほど消耗し乱雑になっていってしまった。
酷暑対策の給水タイムでもその流れは変わらず、大迫のがエリア内でファウル気味に倒されるがPKはなく、それ以外ではほぼ攻撃的見せ場のない前半の後半だった。
後半 稀に見る危機的状況
メンバーチェンジもなく、後半を迎える。
気温は全くと行っていいほど下がらず、うんざりする酷い暑さが続く。
が、後半の立ち上がりは回復した出足を活かし見せ場も作った。
原口が中央を突破し、エリアに迫る。シュートまでは行けない。
何かここで違和感を感じる。
連携の問題というか、攻撃のアイディアの部分の個々の狙い、それが共通していない。
原口がスピードで持ち上がっても、本田はそのスピードにスペースに開くのが間に合わない。
本田は裏に走ってほしそうだが、大迫は背負って受けたい。
久保に至ってはこの試合は守備に追われてそれ以前の問題だった。
酒井のクロスが大迫に合わなかった場面でも、ダイレクトで送っていれば大迫はフリーだったが、酒井は大迫に潰れてほしそうだった。
守備的な部分、デュエルがクローズアップされているが、この試合に関してはこの違和感が試合全体を覆っていたと思う。
まず最初の交代カードはイラク。超新星的な若手の11番を入れてきた。
そして最初のアクシデントが日本を襲う。
相手に先に身体を入れられて接触し倒れた井手口が後頭部を強打し、脳震盪を起こす。
プレーが切れるまでの浮足立った様子は近年稀に見る光景だった。
今野が準備しすぐに交代で入る。
上手く試合に入った今野。
縦だけでなく斜め、中距離だけでなくショートに、うまくボールをさばきながらリズムを少しずつ産んでいく。
微妙なズレを修正しつつあったが、いささか消耗しすぎていた。
酒井は足を引きずり、原口は顎があがり、大迫も収まりが効かなくなってきている。
日本の判断は消耗の表情を隠せない原口を下げることだった。
受け手にも出し手にもなれるフレッシュな倉田を入れ、今野とともにより潤滑にボールを回させる狙い。
攻撃的な姿勢で勝ち切る策であったが、その直後に酒井の足に限界がきた。
もう歩くのも足を引きずる程の状況、交代を急ぎたいが中々ボールが切れない。
その流れで日本ゴール前、混戦の中、交代からリズムを作っていたイラクの11番が必死に足を伸ばし繋いだボールをFWがエリア内に侵入。
昌子は芝に足を取られかわされたが、吉田が対応し、こぼれたボールを川島が抑えに滑り込む。
が、乾燥からか手にボールがつかない。
予想外にもたついた数瞬の内にエリア外から侵入してきた選手に蹴り込まれ同点。
動けない酒井は間近で見ているしかなかった。
交代が明暗を分けたとは言えないが、イラクの交代選手は仕事を果たし、酒井の消耗を読みきれなかった日本ベンチからすれば防げた仕事であった。
結果が全てだ、私の責任、と言って腹では運の悪さを嘆く指揮官の顔が映される。
予想外であり、当然とも言える失点は、誰もがやりきれなかった。
下を向いている暇の無い日本だが、終盤戦は地獄の様相だった。
久保も本来であれば交代している程、足が痙攣している。
イラクの選手も次々に足をつる。
変わった酒井高徳と倉田が右サイドを崩そうとするが、精度が高くなく弾き返される。
それでも最後まで勝ちにこだわる姿勢は見せた。のだが、それすら少し中途半端に終ってしまう。
消耗している中で、選手を走らせても中々つながらない。
吉田を前線に上げるのも、CB的な動きもこなせる今野がいるのであれば、もう数分早くても良かった。
事実、今日の試合で唯一強靭さを発揮した吉田へのパワープレーは機能していた。
大地と気候と消耗とも戦わなくてはいけない死闘なだけに、見ている方としては宙に挙げた手をどこに下ろしていいかわからない終盤戦だった。
前述の負けられない一戦ではなかった雰囲気もここで数分間バランスを取るという事に作用したのかもしれない。そう嘆くしかなかった。
ロスタイム、酒井高徳のロングスローを吉田がエリア内で落とし、本田がインステップを振り抜くも力なくキーパーが正面でがっちりとキャッチし試合終了。
過酷な状況とも戦った試合は疲弊感と共に終わった。
イラクもW杯に行けないとは言え、技術的にも未来を感じさせる戦いをきっちりとやりきり、日本の選手達とも勇敢に戦っていた。
アクシデントに見舞われ、プランが全て崩れた日本、全てはめ込んだら勝っていたはず。ベンチには乾も浅野も岡崎もいた。
ただ前半の先制後、少しの消極的な感情が、余韻として後半まで引きずられてしまった様な、そんな感触は残っている。
試合後の選手たちの表情は、地獄から開放された疲労感と、勝ち点の喪失感で目が虚ろだった。
彼らにとって大きな経験になったのだろうか。ただ1の勝ち点だけを持ち帰るには、些か苛烈すぎる旅だった。
勝ち点&スケジュール整理
まずは先日の結果を反映した順位とスケジュールからおさらい。
○現在の順位表はコチラ。6/13終了時点
1.日本 勝ち点17 得失点差 +9
2.サウジアラビア 勝ち点16 得失点差 +7
3.オーストラリア 勝ち点16 得失点差 +6
4.UAE 勝ち点10 得失点差 -3
5.イラク 勝ち点5 得失点差 ‐3
6.タイ 勝ち点2 得失点差 -16
スケジュールは下記の通り。
⚪︎9/1 第1節
オーストラリア 2vs0 イラク
日本 1vs2 UAE
サウジアラビア 1vs0 タイ
⚪︎9/6 第2節
イラク 1vs2 サウジアラビア
タイ 0vs2 日本
UAE 0vs1 オーストラリア
⚪︎10/6 第3節
UAE 3vs1 タイ
日本 2vs1 イラク
サウジアラビア 2vs2 オーストラリア
⚪︎10/11 第4節
イラク 4vs0 タイ
サウジアラビア 3vs0 UAE
オーストラリア 1vs1 日本
⚪︎11/15 第5節
UAE 2vs0 イラク
タイ 2vs2 オーストラリア
日本 2vs1 サウジアラビア
⚪︎3/23 第6節
UAE 0vs2 日本
イラク 1vs1 オーストラリア
タイ 0vs3 サウジアラビア
⚪︎3/28 第7節
日本 4vs0 タイ
サウジアラビア 1vs0 イラク
オーストラリア 2vs0 UAE
⚪︎6/8 第8節
オーストラリア 3vs2 サウジアラビア
↓6/13
イラク 1vs1 日本
タイ 1vs1 UAE
⚪︎8/31 第9節
日本vsオーストラリア
タイvsイラク
UAEvsサウジアラビア
⚪︎9/5 第10節
サウジアラビアvs日本
イラクvsUAE
オーストラリアvsタイ
もう1会場の試合でUAEが引き分けた為、日本は3位以内は確定し自動敗退はなくなった。
次戦のホーム・オーストラリア戦では勝たなければW杯は決まらない。
要は残り2戦、日本・オージー・サウジの三つ巴の中で、より多くの勝ち点を得た上位2チームが出場権を手にするという戦いになる。
そうなると残りの2強との対戦を残す日本が圧倒的に不利。有利なのは今日持ち帰った1の勝ち点だけである。
サウジの次戦はアウェイのUAE戦。
3位以内がほぼ絶望的になったUAE(日本が残り二連勝・サウジ&オージーが2連敗さらには得失点差で上回らないと3位はない)はホームで上手くモチベーションを持ったまま、サウジを叩けるかという形になる。
サウジはオージーに今節負けているので切羽詰まってしまった分、しっかりUAEにトドメを指し、ホームで最終戦日本を叩きに来るはず。
一方日本の相手のオージーは、実はこの後6月17日からアジア代表としてチリ・ポルトガル・メキシコも出場するコンフェデ杯に参加する。
メリットは抜群の実戦経験。コンフェデ杯に加え、本日親善試合で大敗こそしたがブラジルとの試合をこなした。
デメリットはリフレッシュの時間が減ってしまう疲労感。
おそらくメリットのほうが大きいはずだ。ある程度の強化のための戦いがコンフェデでできれば前回戦ったオージーとは別のチームと考えるべきである。
この最後の2戦、最低でも勝ち点4を獲るべきだ。超最低ラインでも勝ち点3。
2以下だと、おそらく3位は日本だ。
そうなると次のオージーで決めなくてはならない。
相性が良いのはサウジだが、全力をもってアウェイで潰しに来るだろう最終戦のサウジ戦に運命を委ねるのは勝ち点計算上は得策ではない。
そういう係数的な部分も考慮して、一回り強くなるであろうオーストラリアでも勝たなければいけない状況が作り出されているのだ。
次戦までは2ヶ月の時間がある。
この時間は貴重だ。目下の相手はまたとない強化中である。
どういう選手構成になるかも含めて見守っていきたい。
次回はまた選手に想いを馳せるようと思います。