都会的自然派サウンドのイギリスの良心travisに想いを馳せて
2016年4月末、通算8枚目となるアルバム’EVERYTHING AT ONCE'を発表したスコットランド・グラスゴー出身のバンドtravis。
美しさと躍動感が鮮明に同時に感じられて、時の流れも感じる熟練した奥深い魅力がある名盤。
僕が最初にtravisを知ったのは2007年のサマーソニックだった。
フェスも終盤、マウンテンステージのsum41のステージを見たくて攻撃的な気持ちを作りながらメッセの中を歩いていたら、その一つ手前ソニックステージのtravisのステージが丁度始まった所に出くわした。
高まり過ぎて火照った頭を、急速に優しく冷まし、全く違う音楽を奏でるロックバンド。
ロック=激しいものという妙な正義感でしか考えていない頃の自分にとっては、その静けさと美しさに包み込まれる感覚は、紛れもなく新鮮で、思わず足を止めて聴き入った。
結局はsum41のステージには行かず、最後までtravisのステージを見てその年のサマソニを締めた。
これもフェスの楽しみ方かも知れないなとニヤニヤしながら終わった初めての夏フェスはtravisの印象が強く残った夏だった。
そんな思い入れのあるバンド、travisに想いを馳せる。
1.travis バンドプロフィール
スコットランド・グラスゴー出身のtravisは1996年にデビュー。
グラスゴーのアートスクールのたまり場のバーで中心になって結成された芸術畑出身のバンドだ。
まさにブリットポップ狂騒期ど真ん中で、当時の音楽性もシンプルながらパワーのあるロックを鳴らしていた。
ギャラガー兄弟直々の太鼓判も受け、オアシスの前座も務める、名実共に王者である彼らの弟分でデビューして成功したが、どうも無理にはしゃがせさせている感も強かった。
それでも瑞々しいポップ感の中に、降り注ぐような淡い色彩を感じるメロディーの優しい肌触りは既にあった。
グラスゴーからロンドンへ、なんとか馴染もうと四苦八苦した青年たち、その素朴で純真な美しさは消える事はなく、都会でも鳴り響く事になる。
travisの本質的なサウンドはこの曲の外側に映るブリットポップではなく、その先のイギリスの未来のロックシーンの一つを支える事になる叙情的な音楽にあった。
2.travisの音楽性
1999年発表の”The Man Who”より彼らの本領は発揮される。
美しさと優しさに満ちた幻想的で洗練された都会派自然的サウンド。
外ではなく内へ向けて、エモーショナルを響かせる。
ブリットポップの狂騒に飽き飽きしていたリスナーにとって、travisの奏でる世界観は新鮮でより響くものだった。
静かに漂う淡いギターと消え入りそうなフランのボーカルの'Writing To Reach You'
大切に奏でられるメロディーの’Driftwood’、大合唱必至な名曲'Turn'といったナンバーが代表的。
美しければ美しい程、哀しくなる。
のではなく、より広がりを見せる音の心地よさがある。
霧がかったサウンドだが不安さはない、
フランのボーカルには神々しさすらあるが、とっつきにくいわけではない。
木漏れ日の様な、慈愛に満ちた暖かさがtravisの音の印象だ。
’why does it always rain on me’や’Walking In the Sun’’Flowers In the Window’のような、情緒的でノスタルジックなナンバーに、寄り添うような暖かいボーカルが感じられるのだ。
3.インヴィジブルバンドの暖かさ
セールス的には大成功はおさめたtravisだがレジェンド的な扱いはされない。
oasisやradioheadの様に常にトップシーンにはいないけど、忘れた頃にその優しさに触れられる機会訪れるという小さな幸せ感がとっても暖かい。
ずっとインヴィジブルバンドでいいのだtravisは。
なんか色々盛り上がってるけど僕らの事も忘れないでね、くらいの温度が彼等らしいと思う。
その良心的な存在感がいい。ちなみにoasisやradioheadを聴くよりも、travisを聴いているととてもイギリスに行きたくなる。
是非聞いてみてほしい。
美しく優しく前向きにそっと漂うメロディーに、身を寄せたい瞬間が皆さんにもあるはず。
雨の日なんかには最高にいい。
小雨の中に、why does it always rain on meなんかが流れた日には、この上なく優しい気持ちになるはずだ。
フジロックでの奇跡は今でも語り草。
そういう贈り物を神様がくれるもの、トラヴィスの御威光あってのものだ。
彼らの賛美歌じみた美しさを感じ、そう思う。