Football soundtrack 1987-音楽とサッカーに想いを馳せる雑記‐

1987年生まれサッカー・音楽(ROCK)好きがサッカー・音楽・映画などについて思いを馳せる日記

【長編レビュー】BECKに想いを馳せて【ソングレビュー17】

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世界最高にヘンテコで格好いい音楽。オルタナティヴの権化BECKに想いを馳せる。 2019.9.13リライト

その時だけ限定ってわけではないが、僕は只事じゃなくとびきりに嫌な事があると、BECKを聴きたくなる。

ヘンテコで、疲れて混線した僕の頭の中の10倍は雑多な音。
それでも超絶スタイリッシュにまとまっていて、何故だかめっちゃカッコいい音楽だけが頭の中を巡るマジカルな時間が流れ、いつの間に嫌な事はどこかに置いてきているのだ。
 
BECKを知っている人は、多そうで少ない印象が僕の統計だ。

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ハロルド作石の音楽バンド漫画でも、良く駅ナカにあるコーヒーショップでもなく、ベック・ハンセンはアメリカのオルタナティヴロックミュージシャンであり、シンガーソングライターである。
 

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90年代に発現し、今の今まで一線を画した特異な存在でロック界に君臨するBECK
何とも形容しがたい難解で楽しいオルタナサウンドは、現実逃避的な陶酔感に染められ、不可思議な躍動感が身体のいつもと違う部分から湧いてきた様な刺激的な感覚。
理解を超えた感性の部分に、ただただ音に溺れる感覚を与えてくれる。
 
"ロックは悩みを解消させる音楽じゃない、悩んだまま君を踊らせるのさ。"
The Whoのボーカル、ピート・タウンゼントが残したド名言が脳裏をよぎるほど、BECKはロックな要素を持っている
そしてそれだけでなくアートでポップだ。更にはフォーキーでファンキーでもブルージーでもジャジーでもオリエンタルでもあるのである。
すなわちそれは詰まる所ロックなのだ。
 

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言っている事もヘンテコで、国語下手なの?って位、ブレまくったデタラメな表現がしっくりきてしまう。
上手に表現しようとすればするほど、BECKは逃げていくようで、掴みきれない。禅問答の様だ。
様々なジャンルのサウンドを横断し、自分が何者か?という問を嘲笑うかのように変幻自在に音を操る。
どこかヘンテコ。でもすっげぇ格好いいのだ。
掴み所がなく更に破格な存在。
本日はBECKに想いを馳せる。
 
 

Spotify Playlist

 

 

衝撃の'Loser' 1994年以後の全てを変えかねないBECKインパクト

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歴史上で転換点になり得る大きなバンドやアーティストが出てきた場合、例えばビートルズ以降の〜と指標になる事がロック界では良く使われる表現で、BECKことベック・ハンセンもそういう存在であると言えるのだ。
アンダーグラウンドから勃興し、インディーズシーンを飛び出し1990年代以降メインストリームを席巻したオルタナティヴロックという掴み所のない大らかなジャンルを、そのジャンクでメロウな音楽で鮮やかに華麗に踊ってみせたベックは、不世出で唯一無二のまさに'オルタナティヴ'な存在として今のロックシーンに君臨し続けるトップで異質な存在である。
 
1993年、彼が23歳の時にインディーレーベルからリリースしたアルバムの一曲"Loser"がラジオで流れると、全米を"何だこれは"で席巻する。
直前までホームレス同然の暮らしをしていたらしいBECKの負け犬のテーマ。
エレアコの印象的なリフに始まり、エスニックなサウンドがクールなグルーヴに乗り、奇妙さ心地よく味わいを産む。
脱力気味だが、抜群に"上手い"感性を感じるラップとボーカルで皮肉たっぶりに"俺は負け犬だ、殺しちまいなよ"と、気だるそうに自棄する。
その音像を誰もが的確に捉えられないまま、確実に心から湧き上がる高揚感と高い芸術性に、今までにない感覚で不思議なまま踊らされた、まさにオルタナティヴなこの曲でBECKは世界と繋がったのだ。
このオルタナティヴという"代わりとなる・もうひとつの選択・型にはまらない・(今までの物を引き継ぎつつ)今までにない新しいもの"という意味の言葉は、現代に至るまでロックを語る上で重要なキーになるスタイルであり、'Loser'でスタートを切ったベックはオルタナティヴな音楽シーンにおいて超重要なアイコンとして君臨する事になる。
 
僕が初めて中古でメロウゴールドを買ったのが10年くらい前の2008年くらいなので、その時点で発表から15年が経っていた。
それでもLoserは衝撃的に一線を画していたし、僕に音楽の幅みたいなモンがあるならそれはこの一曲とこのアルバムで確実に変わっただろうなと思う。
今思うと、〜以降に、と異名の入るバンドは、どの時代で聞こうが、初めて聴いたソイツの胸の中での~を初めて聴いた時からという、オルタナティヴな線引きをするんだろう。
BECKを初めて聴いた僕の胸には、只事じゃないインパクトがあったのだ。
 

誰だナンだ ベックとは

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見た目は実に優男。
最近じゃ、それがいい具合に渋くなって来てボブ・ディランみたいになって来た。
いかにもアーティストらしい風貌に何処と無くナードさを同居させるベックの見た目は、何故か凄く取っつきやすく、稀代の芸術性を持ったシンガーソングライター、それこそボブ・ディランディヴィット・ボウイプリンスの様に惹きこまれる見た目をしていると思う。
 
彼は何者なんだと一言で言えば、すげぇアーティストな環境で捻くれて育った天才的な変わり者だ。
1970年カリフォルニアに生まれ、父は格式高いミュージシャン、母も芸術家。
父母どちらも北欧にルーツを持ち、母方の祖父は前衛芸術家集団フルクサスのメンバーで、レベルの高い芸術的教養、型にはまらない新奇で限定的ではない表現を身近に幼少期を過ごし、5歳の頃に電卓の効果音で作曲してたって噂も残る。
芸術的な感性をもった青年に成長すると高校中退し、旅に出る事を決意。
自身のセンスに磨きをかけるヨーロッパへの旅を始め、祖父の元で前述のフルクサスの教養にも触れ、音楽で生きる道を選び曲を作り出し、それが各地のラジオでヘヴィーにプレイされ、前述の席巻に繋がるのだ。
強烈な芸術畑の才能を持った両親とその離婚。更にすげぇ芸術センスをもったおじいちゃん。
そういう環境にいつつも見た目のナヨっぽさ通り「ギターを買うお金がなくて、若い子をカツアゲしようとしたんだ。そうしたら逆にお金を取られちゃってね」みたいなエピソードもあって何処か親しみやすさもある。
 

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1994年、'Loser'も収録された1stアルバム'メロウゴールド'でデビューを果たした以降、とどまることを知らない創作力で怒涛の勢いでアルバムを作り続けてきた。
2017年までに10枚のオリジナルアルバムを発表し、数々の作品がオルタナティヴロックの金字塔として名を刻んでいるしアルバム毎に大きくテーマを変えつつあらゆる姿を見せてきた。
それにとどまらずシングルのみの曲や、楽曲提供やサントラ的な仕事もこなしまくり、その度に高い芸術性を見せてきた。
グラミー賞も度々受賞し、世界累計のセールスは3000万枚以上を超え、音楽フェスでヘッドライナー級の活躍を25年くらい維持し続けるとてつもないレベルのミュージシャンなのである。
活気はあるが、ガヤガヤして雑多でどこかダークな闇市のようだった90年代前半の音楽シーンに、見たこともない色彩を混ぜたサウンドでマジカルミステリーな世界を具現化させたBeck ミュージック
ファンクやフォーク、ブルースをルーツに持ちつつ、あらゆる音をサンプリングしパッチワークするミクスチャーの様な技法。
それをアートの域で、さらに聴きやすさをもって作り上げられるのがBECKの凄い所だ。
 
芳醇なメロディーラインの上に、何処からか持ってきた音を継ぎ接ぎ的に組み合わせ、安易なものではない音の数々を抜群のポップセンスでくるむ事で、不可思議でヘンテコでもきっちり歌として成立し現実に脈打つスタイリッシュな高揚感に繋がる。
ロックもブルースもジャズもヒップホップも、古き良きも最先端も、アメリカもイギリスも北欧もアフリカもアジアも南アメリカも、そして現実の生の音も仮想的なバーチャルな音も。
古今東西、様々なサウンドを横断し自在に操れるマジカルなセンスは、宇宙人だと称される。
星レベルで違いを見せるそのサンプリングセンス、それでもベックの音楽は抜群にノリやすく聴きやすい
わかんないならそれでいいよ、でもない。
愛好家同士のハイソな趣味に非ず崇高さは保ち畏怖されながらも大衆に響く究極的なポップネス、それこそがベックのキーで、見た目の普通だけど不可思議な魅力にも繋がるんだろうと思う。
入館料の高い美術館ってわけではなく、路地裏の一角のひだまりに照らされたストリート・アートの前で音楽と共に色んな人が一緒に踊っている様な音楽。
様々な音を拾い集め、研究と試行を繰り返し、歴史もサウンドも超越したアップデートを繰り返すベックミュージックはアーティスティックさ特有の近寄りがたさは濃くない、むしろ'こんなんできたんだ。一緒に踊ってみないかい?'時にそんな風に思うBECKのキラキラっとした無邪気な雰囲気は、実に心地よく聴ける一因になるのだ。

ベックの楽しみ方 ソングレビュー

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BECKとは実に自分の都合のいい様に自由に解釈できるジャンルレスな魅力を持っていると考えられると思うのだ。
あらゆる音のピースが混ざるからこそ、ロック好きな僕であればギターの音とかロック的な部分を抽出する探し方をどうしてもするし、基本線でとてつもなくポップなフォルムを持ったトラックが多いから選びやすい傾向もある。
無邪気にジャンルを横断するからこそ、あっさりと僕が思っていたロックという幅を超えてくるし、呆れるほどに壮大で楽しいのである。
 
そういう壮大さを目まぐるしく堪能するのに、数々の楽曲群を横断する様にごった煮で楽しむのも僕の勧めでもある。
アルバム毎に大きく作風が変わるのも彼の魅力でもあって、その理解も彼の音楽にとって良きエッセンスになるが、全部のアルバムをひっくるめてシャッフルで聞いた時の、美味しい曲盛り沢山感のワクワクは、ただ純粋に音を楽しめるアドヴェンチャーとなるのだ。

更に更に、聴き進めて行くと、実はそのキーは、パッチワーク的なミキシングセンスの他に、彼の声にあるとも思うのだ。

ざらざらしながら丸みもあって、透き通る声は常に耳に届きやすい。
そのラップもボーカルも、彼の宇宙的なサウンドを泳ぐに相応しい音圧を持っているし、音に合わせて加工されやすい様な、フラットでナチュラルで素朴な聴き心地。
それは同時にミステリアスな位、クールにもなる。
音の合間を縫うように漂っている様で、急にど真ん中で叫んだ様に存在感を増す神出鬼没で幻惑的な音のピースとして、更にはどのパッチワーク的な音より肉体的で純粋な歌としてのメロディーは、時に途方もなく美しいのだ。
 
こうして考えると、多分僕は彼の音楽の一端しか触れてないかもしれない。
きっとそれでいいのだと思う。僕が掴んだBECKとして愉しめば良いのだ。
それほどまでに、BECKは広く深いのだ。

 

と、言うことでアンセムはおさえつつ、ロック的で彼の声も心を打ちやすい珠玉のトラック17曲をチョイスしてみました。

割りと彼のトラックの中でもガツンとくる17曲。

ぜひ聴きながら読んで頂ければ幸いです。

 

1. 'Devil's Haircut' 1996年 Odelay

2ndのオープニングトラック。
風変わりなランドマークになったジャケが、むしろしっくりくるブレイクビーツポップネス。
呪術的なほどキャッチーなメロディーラインをしつこく繰り返す中に、ブルージーなギターにインダストリアル・スペイシーなエフェクトと、ありとあらゆる音を差し込みオルタナティヴに爛漫と变化するBECKアンセムの一つだ。
あくまでもフラットなテンションで漂い続ける様なBECKの声を中心に、いまにもほころび崩壊しそうなローファイ、ギザギザに尖ったサウンドが跡形もなく消え去る様な聴き終わりの爽快感は、かつてない衝撃だった。
 

2.'Loser' 1994年 Mellow Gold

緩いようで精緻の極み、ダサいようで超絶スタイリッシュ、キャッチーかつオルタナティヴ。

自分は何者か、を軽やかに避け、ただの負け犬さとうそぶく。

アイロニーな名曲は、実は彼の曲の中でも極端にシンプルに響く。

特徴的なエレアコのギターリフに波及するオリエンタルなエッセンス、痺れるビートと軽妙なラップは、シンプルな構成ながら余裕でずば抜けていたオルタナティブ史上に残るレベルの曲となった。

 

3.'E-Pro' 2005年 Guero

6thアルバムから痛快なベックアンセム。

クラッシュでキャッチーなリフが中毒性を振りまきながら掻き鳴らされるのっけからのエクスタシー、複数の音が脈打つパーフェクトなリズムのビート、距離感狂いそうなサイケな空間を自在に泳ぐベックの声の艶やかさは、彼の楽曲の中でも随一レベルにヘヴィなアンセムとして機能する。
トリップする様な陶酔感は、しばらく心の中で鳴り続けリフレインする
 

4.'This Girl That I Know' 2006年  The Information

ローファイなブレイクビーツのヒップホップナンバー。

ゆったりとしたビートが緩やかにステップを踏ませ、最も気持ちの良いタイミングで奏でられるパーカッシブなギターフレーズがキレ良く響きアガる。

コズミックに弾ける金属音や電子音が、ロウな雰囲気を不可思議な世界観に変換し、チープながら分厚いグルーヴに包まれるのだ。

どの音とも違う存在感で悠々自適なBECKのラップもフラットなテンションで実にスタイリッシュ。

 

5.'Que Onda Guero' 2005年 Guero

ヒスパニックが多く暮らす地域のマイノリティである白人として育ったベックの内情を描いたアルバムのヒットナンバー。
スペイン人の笑い声とか叫び声もサンプリングされてる。
デジタルの双方向で無機質な描写ではなく、あくまでベックの目線からクールに赤裸々に見つめた描写は内省的で貴重。
大振りなビートで振り下ろされるブーミーなサウンドと、ベックのラップがリズミカルでシャープに刺さる。
絶妙なノリの良さでカラッとしたサウンドを煙に巻いたようなコントラストはすごくスモーキーで美しい。
上下も左右もあべこべにされ、ベックの歌なのかスペイン人の声なのか、ただ無機質に音が回るエレクトロクラッシュ的な快感もあって、リストには外せない一曲。

 

6.'Where It's At'  1996年 Odelay

ジャジーでメロウなしっとりしたメロディのベースラインの2ndのヒットチューン。
徐々に電子的でバーチャルな世界が侵食してくるコラージュ奏法は秀逸で、淡々と流麗なベースラインが何度もリフレインし前後入れ替わり、その度摩擦的にクラッシュな雰囲気を作り出しスリルを撫でていくような危うい魅力も有る初期のパワートラック。
 

7.'Hell Yes' 2005年 Guero

ヒップホップのモダニズムとニヒリズム。クールで無機質なビートと、シャープに時折眩く光るサウンドエフェクトはまさに異世界の感覚溢れる。
無機質世界に凛と響くソナーの様なエコーする電子音、見たこともない世界を泳ぐノリノリのベックの声。
一度聞いて’何だこれは’で心を掴まれ、何回聞いても違う心地を呼ぶ迷宮感はある意味ベックの極致で、奇作的な名曲。
 

8.'Novacane'  1996年 Odelay

スモーキーで曇ったグルーヴで幕開けるBECKのメロディーセンス炸裂の一曲。

艶やかなメロディーのリフだけでも口角上がるのに、電撃的なリフに始まり音の種類がめちゃくちゃ多いスーパーベックワールドに彩られる。

もう少しで掴めそうな気がして、全く違う音が訪れるトリッキーな快感。

割れまくりのBECKの声とビジーなエフェクトが絡む、彼の理の中の強烈な色彩をぶちまけたサイケでブルージーな名トラック。

 

9.'Sexx Laws' 1999年 Midnite Vultures

誰もが変貌に驚いたファンキーでカラフルなダンスナンバー。
チャーミングなメロディーラインにトランペットが映える。
乱雑な音のパーティー感は醸しつつ、必殺のパッチワークはモザイクアートの様に歌をビルドアップする深みは残すのだ。
歌詞に銀座線が出てくる親近感は僕らの特権。
えっ、と言わせるくらいのはしゃぎ様だが、さまになってる純粋な歌としての良さは流石である。
 

10.'Timebomb' 2007年 シングル

デジタル音源としてリリースされた2007年グラミー賞も受賞したシングル。
決まったフレーズをリフレインする構成の徹底した究極のミニマリズムは、オートマチックさを存分に演出する。
ブーミーな振動音、シニカルな程無機質な電子音のリズム、エレクトロなビート、気の抜けたコーラス。
ハイファイをパンク的に、とてつもなくモダンに非現実的な世界に迷い込ませる。
PVも公式ではないがカッコいい。
 

11.'Minus' 1996年 Odelay

BECKの中でもロック色強めのパンキッシュなトラック。

エッジーなディストーションのギターリフに、まくし立てる様なボーカルはスピーディーに狂気的。

これがライブだともっと異常性を増して、滅茶苦茶格好いい。

 

12.'No Complaints' 2006年 The Information

2006年のインフォメーションからシンプルなギターチューン。

淡々としたフォーキーなギターリフと比較的明るめのベックの歌。

音の加工と差し込みも最低限で、口笛とかも入る素朴でナチュラルなベックの声が存分に楽しめる。

色合いの鮮やかなアコースティックな名曲のカラフルさの中心は実はベックの声なのだ。

13'Send A Message To Her' 2005年 Guero

ギターサウンドが軸に置かれたマジカルロックチューン。

しっとりとしたメロディーに、ギターサウンドがリズミカルに絡む。

微妙にテイストの違うギターの響きを、何重にも掛け合わせダイナミックに展開、特に終盤に連れてのフリーキーな高鳴りは凄い高揚感あるシーンだ。

14.'Hotwax' 1994年 Mellow Gold

うだるような暑さを曲に閉じ込めたような酷暑トラック。
ブルージーなギターをスローで陽炎の様なビートに乗せる。
ユラユラと揺れる中に、急にタガが外れた様にささくれた音が刺さる沸騰感もサマートラックらしい。
ザラザラしたエッジーなサウンドエフェクトが、心の琴線をひっかき続ける様な濃度の濃い一曲。

15.'Gamma Ray' 2008年 Modern Guilt

モダンロックチューン。
ダスティーでメランコリックなビートを刻み、大胆にサイケにボーカルを取り、煙に巻く様にエコーを聞かせる。
コンパクトな分、疾走感すらあるクラッピーなリズムは、迫りくる感じも心地よく充実の音の密度だ。

 

16.'Nausea' 2006年 The Information

吐き気って意味のタイトルを冠したキラーチューン。

分厚いネオアコのメロディーをタイトにねじりあげたような音の凝縮感は、アグレッシブに多彩かつ猛烈なキレを産む。

打楽器の音が楽園的でトロピカルに響き、開放感すらある賑やかさ。

少し興奮気味に聞こえるBECKのボーカルも、音に比例して比較的エネルギッシュだ。

 

17.'Leopard-Skin Pill-Box Hat' Bob Dylan Cover

ボブ・ディランの名曲のカバーソング。

フォーキーなメロディーはそのままに、ビート感をミックスアップしモダンでエネルギッシュなトラックに変貌。

ギターとハープは割りとフリーキーに鳴り、本人も名曲に色を塗るのを楽しみながら演奏してるような印象を受ける、奇才から奇才へのカバー。 

 

BECKは何からもオルタナティヴな存在 

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音楽ジャンルとはなんぞ?という話はよく出て来る。
ロックとは何?境界線はどこ?
元オアシスのノエル・ギャラガー'ロックは靴からだ'と言う様に、音楽のみならずスタイルだとも言える。
奇抜で他人と違う事であろうと、自分が信じた物を貫く矜持。だから重いものでもあるのだ。
音楽的な事を言えば、それぞれの音の傾向や感触を細分化したものであるがその線引はあくまでもパーソナルなもんであるし、その歴史や成り立ちのドラマも含めてエッセンスとして楽しむもんであると思う。
要は聴く側はそれに固執しすぎると自由を失うということだ。
 
BECKはそんな想いの中枢をいつも撃ち抜いて来る。
国境線を跨いでひょいひょいと自在にタップする様に、切って貼ってのミキシングパッチワークは、継ぎ目を感じさせないくらい流麗に、或いは敢えてガタガタになる様に強調させる、その芸術的なオルタナティヴセンス。
ジャンルに囚われないし捉えられないし、そもそもあんまり気にしてない様にすら映る。
 
僕の生きるこの時代にベックがいたのは、当然幸運なことでは在るんだが、ベックはそういうもんからもオルタナティヴに切り離された存在なんだろうと思う。
無理くり説明したが、ジャンルとしても音楽家って以外は何もわからなくていいのかもしれないし、50年前に現れても50年後に現れてもフォルムは違えど同じ様な存在感を放つような気がしてならない。
今ここで聞く彼の音楽が何とも魔法的で、音楽が存在する以上その杖を振るえばマジカルなベックミュージックが出来上がるんだろうとまで思うのだ。
切り札的な存在に頼らせてもらっているのも、そんな魔法的な効果を期待しているのかもしれない。
説明しづらいポップ感と何にも勝るクール感。
今日もどこかの誰かを躍らせるんだろう。
このヘンテコでカッコいい音楽の最高峰は、僕の音楽の幅を広げてくれるし、いつだって他の何にも代え難い摩訶不思議なパワーをくれるのだ。

それではまた別の記事で。