Football soundtrack 1987-音楽とサッカーに想いを馳せる雑記‐

1987年生まれサッカー・音楽(ROCK)好きがサッカー・音楽・映画などについて思いを馳せる日記

【忘れたくない選手】アイマールに想いを馳せて 後篇1‐甘い魅惑の天才プレイヤーのフットボール人生‐

広告

魅惑に満ちたプレーヤー、パブロ・アイマールに想いを馳せる

中編の2はコチラ

www.footballsoundtrack.com


黄金時代の終わり

f:id:idwcufds:20170310112402j:plain

2001年から2004年までのバレンシア黄金期
結果的に見れば、ここまでがアイマールのキャリアで、最も栄光に溢れた期間だった。
そして、これ以上の栄光はアイマールの元に訪れることは無かった。
ここからのキャリアは、再び栄光へ向かい、傷だらけになりながらがむしゃらにもがいた、リアルな重さと自らを燃やした炎のような煌めきを感じる、時代の流れと戦ったファンタジスタのストーリーだ。

f:id:idwcufds:20190605000052p:plain

黄金時代を作り上げたベニテスがフロントとの対立でクラブを去った後、クラウディオ・ラニエリ2004-2005シーズンにバレンシアにカムバックした。
後に岡崎慎司が所属したミラクルレスターを創り上げた稀代の名将。
バレンシアとしては2度目だが、アイマールとしては初めての監督であって、そのリアリズム溢れるフットボールにフィットするかどうかの懸念はあった。
その懸念通り、ラニエリの守備とハードワークを主とするタフなフットボールに、アイマールは完全に歯車が外れた状態となった。
サイドで起用されたり、ベンチスタートになる事が多く、アイマールを失ったチームも預けどころを失い迷走する。
アイマールの失速とともにバレンシアも全くと言っていいほど結果が出ず、ラニエリがあっさりとシーズン途中解雇されると、その後は一時期持ち直すも、アイマール本人も不完全燃焼のままシーズンを終える。
それは翌シーズンまで引きずり新監督キケ・フローレスの元でも出場機会を確保できていなかった。
ここにきて常にアイマールに陰をもたらしたのは、近年表面化した華奢な身体の反動だった。
 

f:id:idwcufds:20170310113831j:plain

 
度重なる故障と身体コンディション不良。
万全の状態であれば、文句のないプレーをする自信がある、がそれを見せる事はここ2年なかった。
チームが崩れた時に、怪我により輪の中心から外れたところにいたアイマール。
チームが調子を取り戻し、アイマールも調子を戻したとしても、歯車が回るチームにアイマールというピースは芸術的趣向が強すぎて、フィットすることはなかった。
フィットさせる事が出来なかったと言い換えてもいい。
監督・チームもそうだが、それよりも本人と変わりつつある世界のサッカーの関係が大きかった。
 
チーム全体でハードワークを続けながら、ボールを奪ってから早めに繋ぎ、ゴールに近い位置にはアスリート的な選手を置く。
テクニカルな選手にも技術だけでなくではなく、フィジカルやアジリティーと融合した技術を求められるようになり、それを満たす選手たちが次々と台頭してきた。
バレンシアでも生え抜きのレンタルバックしてきたダヴィド・シルバが台頭してきたのもこの時期だった。
旧時代的とされてきたファンタジスタがさらに淘汰されていった時代。
それでも自身のコンディションさえ整えば輝ける自信はあった。
それでも時代とかみ合わない歯車は戻らず、チームのタイミングと自身のタイミングも全く合わない悪い流れにアイマールはいた。こうなるともう何か変化をもたらすほかない。
移籍である。
 

サラゴサへの移籍

f:id:idwcufds:20170310114555j:plain

2006年、ドイツW杯をベスト8で終えたアイマールは、バレンシアのユニフォームを脱ぐ決断をする。
21番をシルバに引き継ぎ、サラゴサへ移籍することとなったアイマール。
この移籍のポイントは2つあった。
1つは監督がヴィクトール・バルデスという超攻撃的サッカーを標榜するロマンあふれる人物だったという事。
2つめはアルゼンチン人の同タイプのテクニシャン・ダレンサンドロの所属だった。
バルデス監督はダレサンドロとアイマールを並べて起用するという、時代に反旗を翻すロマン主義フットボールを打ち立てたのだ。
もう一度、90年代の輝きを。アルゼンチンユースで世界を制したメンバーの熱量を。
始まる前から理屈抜きでかっこよさそうなフットボール。現実的でないと嘲笑をされる事もあった。
でもここにこそアイマールの魅力の根本的部分がある。

 

 
名前だけでワクワクするのだ。
それだけ人を惹きつけた香りが、名前からも漂う。
彼のアイドル性みたいなところって、この甘美さ漂う存在感なのだ。
ひょこひょこした歩き方も、アイドル的な顔立ちも、華奢な身体も、ボールを持つ姿勢も、全てその名前の響きだけで光景が浮かぶ。そして高揚感が襲い、人を夢中にさせる魅力をもつ。
ほんとに芸術家みたいなプレーヤーだ。
時代に取り残されても、アイデンティティーは自分の足元とファンの目に宿る。
 
サラゴサでは長期的に結果を残せたわけではなかった。あまりにも攻撃偏重でバランスを崩す場面もあった。
それでも多くの場面でボールを触り、かつてのプレーに近づいた迫力を見せるアイマールは、かつてのアイデンティティーを取り戻していた。
明らかにサラゴサはリーガでリーガらしいオフェンシブな旋風を起こす事ができた。
 
全くと言っていいほど、プレースタイルは変わらない。
リズムよくたくさんの回数ボールを受ける。
遅く攻めるのか、早く攻めるのか、全てはアイマールのリズムで決まる。
リズムが良くなるうちに、いつの間にか、ボールを奪われない。
いつの間にかゲームで一番ボールを触っている選手になっている。
取れないからキツく当たるとすぐにファウルになる様に狡猾に倒れる。
イライラするからほっとくと、いきなり危険なエリアにスルスルと入ってくる。
潰そうと思ってまた削りに行っても、今度はがっちりとキープしてからあっさりワンツーなんかで置いて行かれたりする。
さっきはそれで潰れたじゃないか!と、起き上がるDFの目にはもうリターンをもらってゴールを流し込むアイマールの姿が映るのだ。
 
緩急とか強弱とかを駆使しその場を支配して、サッカーが上手くて同時に巧くもある。
たぶんどこでもそしていつでも巧いんだと思う。ストリートでもスタジアムでもどこでも主役なのだ。
それしか知らないというか、中心にしかいられない。
それが自身のフットボールという作品であるという強烈な色。
不器用とか頑固とかそういう次元を乗り越えて、そのために自らのアイデンティティーを燃やす彼の姿はしなやかな美しさがあった。
 
攻撃的なアイデンティティーを見直す事になったサラゴサへの移籍は、アイマールのキャリアの中でも大きい出来事だった。
終盤に差し掛かるストーリーの中、手にしてきた栄冠よりも、その命をどう燃やすかを考える時、そのアイデンティティーは失うわけにはいかないのだった。
 

【後篇2へ続く】