無人島に持っていくならどのアルバム?第5弾!
無人島に持っていくシリーズ5。
新譜のレビューはやっていたけど、それ以外にも心に刺さったアルバムは山ほどあるのだ。
音楽友達と良く酒飲みながら話すネタ、無人島に持っていくならどのアルバムを持っていく?という話題。おもしろかったので記事にしました。のその5。
1987年生まれ、ロック好きの心を打った珠玉のアルバム達。
今回はASIAN KUNG-FU GENERATIONの5枚目のフルアルバム’サーフ ブンガク カマクラ’に想いを馳せる。
2008年のアジカン湘南シリーズの集大成として発表されたコンセプトアルバムで、江ノ電の駅名を冠した、というか文字ったタイトルの全10曲で構成されている。
湘南のスタジオで、一発撮りで作成されたアルバム。
湘南の光景とポップとロックの衝動を閉じ込めたラフでマジカルなアジカンの旅は、この夏聴くと絶妙に合う。
当時結構賛否あったアルバムだが、10年経った今、同じ夏の様に感じさせてくれるラッキーなお守り的なニュアンスとして響くのだ。
是非聴きながら読んで頂き、素敵な暇つぶしになれば幸い。
それでは行きます。
前回までの無人島シリーズはコチラ!!
抜群の信頼感 アジカンの音楽
2000年代に巻き起こったアジカン旋風は僕らの世代を直撃し、日本のロックというモノの強烈に刷り込み、現在に至るまで多大なる影響を与えてきた。
UKロックやUSパワーポップ、オルタナティブのロックサウンドを色濃くしながら、日本語の表現と質感にこだわったアジカンが確立して来たスタイル。
そのスタイルを長年に渡り追求し続け、揺るぎない信仰を手にした日本文学的オルタナティブロックは数々のフォロワーを産みつつも、アヴァンギャルドな存在として一目置かれつつも、彼らがいないと始まらないというシーンの最前線も担うという、ミラクルな位置に飄々と立ち続けてきた。
そんなアジカンが2008年に出した一枚のアルバム’サーフブンガクカマクラ’。
これが割と癖があって、なんともアジカンらしいのだ。
’サーフ ブンガク カマクラ’
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- アーティスト: ASIAN KUNG-FU GENERATION
- 出版社/メーカー: KRE(SME)(M)
- 発売日: 2008/11/05
- メディア: CD
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2008年、ミニアルバムを合わせればこの年3枚目のアルバムであり非常に旺盛な時期のアジカンの一枚。
悟りにも似た数々のインスパイアを形にした絶対的信頼が置ける時期のコンセプトアルバムであったが、当初はかなり賛否があった。
僕もアルバムからってよりは’藤沢ルーザー’から入って、このアルバム全体を捉えてはいなかった。
そもそも元々は2006年のシングルの’或る街の群青’に入っていた’鵠沼サーフ’から始まった。
一発撮りの録音で文字通り湘南の町の情景を閉じ込めた曲は、これ以降も湘南シリーズとして「一発撮り」「湘南」のコンセプトの元、シングルのカップリングで続いて行く。
そして2008年、ここまで散りばめてきたシリーズを完結させるべく、湘南のスタジオで新曲を含めた10曲30分のアルバムとして一つの作品としてまとめたのだ。
従ってコンセプトアルバムとしての要素は薄いのかもしれない。
江ノ島電鉄をテーマにしているとはいえ旅をしている感覚というかは、一つの物語ではなく文学集に近い作品だと思った。
おそらくまとめてみよう!っていう様な衝動的な形からだし、一発撮りというラフな衝動を閉じ込めた迫力ってのが曲からもビリビリ伝わる極めてロックなアルバムだ。
カップリングで続けてきたBサイド的な、肩ひじ張らない思いつきみたいなフラットな心持もキーになってるんだろう。
冬に発売になってしまってるのも面白いし、ウィーザーのサーフワックスアメリカをもじったタイトルもファニーでいい所。
そういう脱力的でラフな所をフォーカスして聴いてみると、常にバックに入れておきたいような文学集みたいな存在になるのである。
ロックバンドなら誰しもが思うラフな衝動を閉じ込めたい想い、それをあくまでも自由な発想で緩さを持ちながら、安易なものではないサウンドとして昇華する。
割と至難の業なはずなのだ。
情景を浮かべやすいサウンドの直情性は見事だし、いとも簡単に勢いに飲み込まれやすい、最も勢いのある自然体な形のその響き鮮やかなメロディーに口ずさまずにいられないのだ。
馴染みの情景とキャッチーに歪んだメロディー、そしてふんだんに言葉で遊び、インスピレーションに富んだロック集、それがすなわちこのアルバムだ。
新しい試みでラフな発想でありながら、アジカンの流儀の根底にある柔和な情感が溢れ出るこの曲たちは、間違いなく記名性に富んでいる。
あっさりと一発で撮ったって辺りに、絶好調なインスピレーションが彼らの中でもあったのかもしれない。
緩んだリラックスが産んだキレのあるサウンドに、極上に爽やかなポップロックミュージック。
緩さを否定する声もあるが、逆にこれにアジカンを感じずにはいられないだろうと思う。
彼らのアイデンティティーが夏というフィルターを介して、出来るだけ剥き出しに感じられる。
この夏はまだ行ってないけど、今の湘南はどんな音楽が合うんだろうか?
EDMでもヒップホップでもダンスでもいいだろうが、僕自身はこのアルバムを一枚積んでおけば事足りる。
そいいう音楽がすこぶる嫌いなわけではないんだけど、夏の間いつの間にかぽっかりと穴が空いている胸にちょうどいいのは、心の臓を僅かに逸らせるビート以外にはないんだろうと捻くれた文学部的な確信を持っているのだ。
頬を撫でる潮風の様で、あっという間に心を締め付ける。
日本文学的な浪漫紀行であり、 これさえあればって無敵感はまさにロックだ。
日本のロック野郎&女子は夏にはこの一枚だろうな一生。
実はそうありたいものであるという願望もあるのがロックファンなのだろうとも思うのだ。
全曲レビュー
1.藤沢ルーザー
ASIAN KUNG-FU GENERATION 『藤沢ルーザー』
シングルにもなっているオープニングナンバーであり江ノ電の開幕駅でもある。
派手に歪んだ音で渦巻く骨太リフ、強靭にしなるフックの効いたビートが実にロック的なサマーチューン。
あくまでもクールにそしてエモーショナルに、歌声と響きあう感覚の強いエナジーの高まりは夏の開幕にふさわしい。
高いビルと高いリールの韻の踏み方が大好き。
太陽の下、藤沢の街、高揚感まじりの喧騒が早回しで眼に浮かぶ。
2.鵠沼サーフ
暑く爽快なギターロック。
フリーキーに刻まれるデュアルギターと迫ってくる様な圧迫感あるビートが高揚感の波を創る。
うだる様な暑さをグルーヴに昇華して少し燻んだポップなメロディーで踊るアジカンらしい夏のテーマ曲。
低温な夏、不埒な眼という「らしい」ワードを、太陽に向かって飛ばす声がこの上なく清々しい。
彼らしく海と太陽を感じれる。
3.江ノ島エスカー
江ノ電の核となるギターポップナンバー。
エスカーを選ぶあたりのセンスが光る、それとは裏腹にアルバム中最もキャッチーかもしれない。
ふんだんに散りばめられた言葉遊びがビー玉の様に煌めく、洒落た韻を踏みながらそれがハッピーなリリシズムであることを感じさせるボーカルのナチュラルさ。
韻を乗せて蒸発した様なギターの高鳴り、それと共鳴する様に深まる哀愁も含みつつ、一緒に青い空に飛ばしていく様な爽快感。
エスカーの様に空へ向けたベクトルはバンドサウンドの隅々から感じる。
夢でも消えないで、こういう歌詞は10年経って今響く。
4.腰越クライベイビー
ミディアムなパワーポップサウンド。
なんともウィーザーらしい幕開けで、ちょうどいいギターのヘヴィな重力を感じる。
変わらず泳いで行くミディアムなテンポなサウンドとハイトーンな声。
音空間を涙で埋め尽くす様な降り注ぐ暖かいメランコリアのこもったファルセットがホロリとくる。
海の中に夕陽と共に溶けていく様な、夏以外では感じられない光景とか感情が流れ込んでくる。
5.七里ヶ浜スカイウォーク
スタイリッシュでダヴなロックチューン。
ローファイにアイロニカルに、優雅な気分の歌声。
奥行きを感じるアクアなメロディーが情景の透明感を増す。
びっくりするくらい爽快な退屈な日常から見る希望、この入り混じる感情を見事に漂わせた世界観。
江ノ電でもアルバムでもコアな部分だ。
6.稲村ヶ崎ジェーン
Asian Kung Fu Generation - Inamuragasaki Jane
痛快・爽快なギターポップロックナンバー。
ドライヴィンなバンドサウンドに軽快なゴッチの言い回しが癖になる。
タイトルが似てるし、そのままサザンがカバーしてもアリな陽気さ。
オノヨーコにジョンにポールにリンゴの登場人物もあって、ファニーな空気に包まれるリズムは改めて好きになるJrockらしい趣き。
猛烈なポップさと共に捻られた表現が最もカラフルで、圧倒されるアルバムの中でもエッジの効いたサマーチューン。
7.極楽寺ハートブレイク
ギターポップの軽快なリズムとセンチメンタルなサウンド。
重なってプリズムの様に映える、シンプルで軽めなメロディー。
徐々に夏を感じる、紫陽花の情景に重ねた失恋の歌。
開放的な夏を待ちながら、それに別れの感情を溶かしてしまいたいのだ。
8.長谷サンズ
オルタナティブなパワーポップ的ナンバー。
引っかかりの強目の歪んだギターリフはシンプルでも耳に残る。
馳せ参ず、の鎌倉的な語呂合わせ、ペーパーバックライターって単語もアジカン以外で聴いた事ない。
感情が揺らぐ夏の夜の入り口を描き、疾走しながら色もとらえた色彩鮮やかな音と詩。
サビ、メロディーが高鳴りボーカルが弾む瞬間を花火の様に待ってしまう。
9.由比ヶ浜カイト
オルタナティブなグルーヴ・メロディー。
インディーロックの様なギターグルーヴ、それでもタイトさを感じさせないキャッチーなメロディー。
凧のようにくるくる回るトビの光景に夏を香らせる。
あまりにロック的な転調に割と度胆を抜かれる、ギラついたロックギターからトリッキーな展開で奇妙にも高鳴っていく。
こういう突飛な歌も欠かせない。
10.鎌倉グッドバイ
最後を飾るアコースティックなバラード。
清涼感に満ちた艶やかさ、少しだけ雲が重たい鎌倉の情景。
泡の様なメロディーが幻想的に揺らいで語りかけるように歌う。
さよなら旅の人、そう僕らに声をかけている様なメッセージ。
夏にはこの一枚を
以上いかがでしたでしょうか?楽しんで頂けていれば幸い。
もうすぐ終わってしまう夏に少しすがりたいような今の時期に絶妙に合う。
うだる様な暑さも、清々しい風に変えてしまう様な、マジカルなアジカンの音。
こういう、この一枚だけで、出かけたくなるような一枚。
それが名盤ってもんなんだろう。
平日休みにでも行ってみようかな。
それではまた別の記事で。