たまたま見た名試合列伝
毎年毎年の事なんだが、欧州サッカーを見たい気持ちもあるんだが、なかなかそうもいかない。
プロ野球も開幕し、NBAもプレーオフに入り、サッカーの日本代表戦だってある。
でも欧州サッカーは面白い。BSで撮ったものを見てて、時たま名勝負があってそこに心打たれる。
この位のペースでも十分に堪能できると思った。
先週プレミアリーグの上位戦、マンチェスターユナイテッドvsチェルシーの試合を見ていて、そう思うくらいの名勝負だったのでちょっとここで触れたいと思う。
チェルシーのアザールが調子がいいのは知ってて、そのプレーを楽しみにしてたんだが、モウリーニョの策略とタフなマンUのプレーに心を打たれた90分間だった。
ふとした名勝負に今日は想いを馳せる。
試合前の状況
プレミアリーグは佳境に入ってきている。
第33節のマンチェスターユナイテッドvsチェルシーは4/16の日曜日午後4時、雨の降る冷たいオールドトラフォードで行われた。
試合前の順位はチェルシーは1位、マンUは6位だった。
チェルシーは昨年途中までの絶不調が響き、今シーズンはCLはおろかELにも出場せず、リーグ戦のみに集中し開幕から首位を走る。
昨季途中から指揮を執るコンテ監督の元、好スタートの勢いそのままに盤石の強さを見せていたが、ここに来て先に試合を終えた2位トットナムに勝ち点差4と迫られてきている。残り試合数はこの試合を含め7試合。
その日の空の様に少し曇りがかった模様だ。
ここは因縁あるマンUを叩いて弾みをつけたいところである。
マンUは勝ち点同数の6位に位置している。
昨季の不調もあり今年はELを戦いながらのリーグになり、開幕当初こそ不調であったが徐々に調子を上向きに修正してきた。
木曜日にベルギーの地でELを終えたばかりで、金曜の早朝に帰ってきての週末中2日のビッグマッチだ。
モウリーニョは得意の舌戦でチェルシーの日程優位を説きまくっていた。チェルシーの日程が楽なのは昨季途中まで負けをこませた自分のせいなのに、この辺のしらっとした切り替えの早さがスペシャルワンの所以だ。
マンUはイブラヒモビッチが疲労を考慮してベンチスタートとして、19歳ラッシュフォードと24歳リンガードの新進気鋭の若い2トップを組んだ。
ポグバとフェライ二という目立つ2人が中盤の底を締め、スピードのある攻撃的なムヒタリャンではなく本来守備的なエレラを前めのポジションに入れている。ルーニーとマタは怪我でベンチ外。
一方のチェルシーはハマっている3バックを軸に、好調のアザールを筆頭に、Dコスタ、ペドロの前線は変わらぬ顔ぶれ。
プレーメーカーのセスクがスタメンを外れ、やや守備的な中盤より後ろの形。GKのクワトロが怪我で出場できずベゴビッチが入った。
お互いにけが人を抱えつつ締める所は締めながら、ここまでの戦いの色を出してきた部分もあり、この一戦を乗り切る事に集中したようなスタメンになった。
前半開始 モウリーニョの策とチェルシーの苦戦
開始直後にまず思ったのはオールドトラフォードのピッチは、台形状に盛り上がっているのだ。
雨で滑るピッチに転んでサイドラインを超えた選手がたまに坂に落ちてる。こんな単純な事でもしっかりとサッカーを見やすくしてんだなと思う。
試合はというと開始直後からモウリーニョの策が目に見えて明らかに。
右サイドに配置したエレラをアザールのマンマークにつけたのだ。
時代遅れかってほどに、1mも離さずにびっちりと付く。
アザールが逆サイドに流れてもポジション関係なしについていく。
最初に提出されたポジション表が既に罠であり、右サイドバックの位置にいたバレンシアが本来は前目で、エレラはアザールに対するサイドバックの位置にいたのだ。
そこからさらにピッチのどこにいようともアザールについていく。
アザールはそのマークをはがせずに、ボールをもらえない。何しろ攻撃転じてもエレラは離れない。
そのポジションはポグバとフェライ二で支配しつつ攻撃を組み立てていた。
マンUはその他の選手のプレスもとてつもない速い出足をキープする。
前の若い2人と左サイドのヤングも全力でプレスし、チェルシーの出鼻をくじいていた。
なんとかDコスタに当てようとするが、そこにもCBのバイリーが必要以上にタイトにつき、Dコスタが苛立ち上手く収まらない。
マンUの策がハマりつつある中、幸運と隙を突く抜け目なさで19歳がゴールを奪って見せた。
前半7分、マンUのGKデヘアの組み立てのグラウンダーのパスが中途半端に流れて危ないってシーン。
こぼれたボールをセンターサークル付近で猛然とチェルシーがカットし、その一瞬でアザールはマークを外しバイタルエリアでボールを受けようとした。通れば確実に数的不利。
アザールのマーカーのエレラは何とかパスコースに入りボールをインターセプトするが思いっきり審判の目の前で手に当たってしまう。
が、笛は鳴らず。確かにちょっと避けようとしてたし、エリア内でもないから見逃したんだろう。
審判のプレーオンのサインを尻目にこぼれたボールを拾ったエレラは、少しドリブルで前進した後センターサークル付近から前線へ水を切る様なスルーパス。
チェルシーCBのダヴィドルイスの裏を斜めに抜けていたラッシュフォードにピタリと届き、トラップでエリア内に侵入しキーパーとの一対一を制し先制ゴールを決めて見せた。
まさにドハマりの先制点。エレラの起用もラッシュフォードの起用も正解を早くももたらした。
ただハンドチックなインターセプト、マークを外された事実を考えるとエレラ的には運が良かったが、しっかりとそのまま抜け目なくパスに繋げた事も、モウリーニョのしたたかさが選手にも乗り移ったような象徴的なシーンだった。
勝負事は運を手繰り寄せるのも実力なのだ、こんな場面で卑怯とは言うまいね。そんな感じのモウリーニョの表情が物語っていた。
なによりラッシュフォードの上手さ強さが開始直後から際立っていただけに、しっかりと結果が出た事に見てる方もドヤ顔になるような一瞬でファンになる感もあった。
こうしてマンUが先制し、ペースを握る。
少し浮き足立つチェルシーを後目にその後も、シンプルにボールをゴール前につないでシュートまで繋げる。
ポグバとフェライニの中盤も目立っていた。それでもチェルシーも負けじと元ミラクルレスターの心臓、ボランチのカンテがここってところで全てボールを奪う。
そこから攻撃に繋げたいのだが、ペドロ以外はきっちりとマークされ、そのペドロも独力では突破が難しく、Dコスタは喧嘩をしてイエローもらう始末だった。CBのバイリーの煽り方も流石だった。
中々シュートまで行けないチェルシーは打開策なく、ミドルシュートを前半アディショナルタイムに一本枠外に打ったのみとなった。
前半はほぼマンUにとっては狙い通りにすすんだ。結果も内容も。
後半もこのままでは終わらなそうなチェルシーではあったが、コンテ監督が自信なさげな浮かない顔でロッカーに下がったのが印象に残っていた。
後半開始 動くチェルシー動きなおすマンU
両チームメンバーは変えずに後半はスタートする。
相変わらずの様相なのかなと思っていたら、チェルシーCBケーヒルが自陣のサイド際でフェライニに軽率なファウルでFK。
スパイクの裏を見せたとしてイエローを貰う。フェライニは多分見た目と態度でファウル受けやすそう。
むしろフィジカルでハードなプレーが得意なフェライニを置いた事に、相手にフラストレーションを与える事もモウリーニョは頭にあったのかもしれない。
まだ後半3分。なんとここでもゲームが動くことになる。
敵陣真ん中右サイド際、キッカーはラッシュフォード。
大き目なクロスは逆サイドのエリア外まで流れる。
追ったポグバがキープし、フォローに来たエレラに戻し、ペナルティエリア左45度の角でカンテを背負うヤングに入る。
ヤングはキレのいい反転から縦にエリア内に抜けて低いクロスを上げるが、跳ね返りまた左サイド深くに流れる。
それをカンテがトラップし、クリアを狙った瞬間に切り替えていたヤングが奪い、左サイド深くからエリア内にドリブルで侵入する。
なんとかDFがカットするが、ボールがこぼれた先にはエレラがいた。
エレラは低めの速いシュートを放つと、DFに当たってコースが変わり、GKは反応できずゴールネットを揺らした。
エレラはこれで1ゴール1アシスト。完全にこの試合のシンデレラボーイとなった。
またしてもいくつかの幸運もあった。相手のミスもあった。
しかし、しっかりシュートを打ち切ったエレラの思い切りの良さが光ったし、ガンガン仕掛けたベテランのヤングも輝いたシーンだった。
これで2-0。またも出鼻をくじかれた形となったチェルシーは、いよいよ闘い方を見出す必要に駆られつつあった。
後半9分。中盤のモーゼズに変え、プレーメーカーのセスクを投入する。
4バックにし、前線の3人にボールが入りにくい状況をセスクを経由し、スムーズにしようとする。
徐々にマンマークがズレ、アザールがやや自由にプレーし、セスクのリスタートからDコスタに惜しいシーンも出てきた。
マンU懸念の疲労もあったはずだ。確かにエレラも疲れてるはずだ。
ここでモウリーニョも動く。
後半15分、2トップの一角リンガードを下げ、守備的中盤の大ベテラン34歳キャリックを入れる。
ここから少しずつアザールの監視役が、エレラからキャリックに変わる。
エレラの負担減も含めた守備固めである。
事実その後、エレラは疲労から体がついて行かず、イエローカードを貰っているシーンもあった。この交代は実に効いていたのだ。
動くチェルシーを再び捕まえるマンUは、一点も許さないという気概に満ちた試合の締め方見据え、実は先手をとっていた。
後半21分、更に守備的な中盤のマティッチを下げ、テクニシャンのウィリアンを投入するチェルシー。
更に攻勢を強めたいが、あまりシュートシーンには結びつかない。
まるでキャリックの投入が、ここまで見越したかのような万全の構えだった。
むしろラッシュフォードの単独突破でカウンターを一人で成立させ、シュートまで持って行かれるなど、マンUは見せ場も作り続ける。
後半37分にはラッシュフォードに替え王者イブラヒモビッチを投入する。
最初のプレーから鮮やかなタッチを見せ、前線でしっかりとボールの落下点に入る基本を守る王様は、オールドトラフォードを沸かせた。
マークに付くダヴィドルイスを逆にぶっ飛ばす姿は、さすがだった。
結局そのままのペースで試合は終了。
結果的に見れば、チェルシーはシュート5本、枠内シュートに至っては0本に終わった。
ポゼッションはほぼ変わらず、イエローカードも同じ枚数。
しかし勝負所で効果的にシュートを放ったマンUに対し、ほぼ90分間エースを中心に抑えられたチェルシーの明暗がわかれたのだった。
プレミアリーグは面白くなってきた
この試合を終え、チェルシーは勝ち点75のまま首位、結局2位トットナムとは勝ち点差4。得失点差はトットナムが上回る状態で残り6試合。
トットナムにはアーセナル戦・マンU戦があり少し厳しいカードが多いが、チェルシーの残りの対戦も降格争いをする切羽詰まったチームも多く、なりふり構わず勝ち点を狙ってくるはずだ。
首位争いも面白くなってきた。
一方のマンUは単独の5位に浮上し、ここ20試合以上リーグ戦では負けなしの安定感を誇っている。
CL出場圏内の4位のマンCとは勝ち点差4。そしてマンUは一試合消化が少ない。
このモウリーニョの手の平の上感がすごい不気味である。
例えばの話だが、チェルシーが優勝を逃し、マンUはきっちりとCLの出場権を得たとすれば、この試合がターニングポイントになったと言えるだろう。
さらに言えばチェルシーが優勝しても、心の底にひっかかりそうなこの完璧な完封劇。
幸運もあったがそれすら引き寄せるモウリーニョマンUの自我が、上回っていたと思わせるタフなプレーぶりだった。
ちょっとしばらくプレミアは注目して見よう。
そう思う良い試合でした。
それではまた別の記事で。