魅惑に満ちたプレーヤー、パブロ・アイマールに想いを馳せる
後編の2はコチラ
キャリアの終わり方
ベンフィカで輝きを取戻し、マラドーナ率いる代表にもカムバックし、未だその芸術が一線級だった事を示したアイマール。
時折見せるキレは間違いなく往年の彼そのものであり、それも緩急となってベテランらしい円熟味を纏わせたプレーは、まだまだ代表でもリーグでも重要な選手だという事を証明した。
が、彼も30歳を超え、晩年を超え、キャリアの終わり方を考える時が来た。
2010年シーズン、期待もあったが1つの節目でもあるW杯のメンバーに選ばれる事はなかった。
31歳になったアイマール。
ベンフィカでは相変わらず彼らしさを見せるが、次回の2014年W杯には難しいだろう。
フットボールプレーヤーとして、どう完遂するかを考える時期に来たのだ。
2013年6月、5年を過ごしたベンフィカでの生活を終えたアイマール。
その後、アンバサダー的な役割として2014年シーズンからシンガポールリーグへ参加。
怪我もあり、多くの試合には出れなかったが、最低限アンバサダーとして貢献を果たし退団し、引退を考える。
大きな表明はなく無所属のまま、物語の終わりを考える。ファンの元にもアイマールの現状が伝わらない日々が続いていた。
このまま何もなく終わってしまうのか。いや、彼の終わりには相応しいロマンティックな最期が必要だ。
クラブW杯を控えるあるクラブが獲得に名乗りを挙げたのは2015年1月。
そのクラブはリーベルプレート。彼の故郷だった。
リーベルプレート
ファンの前から姿を消していた1年、もう過去の選手として消え去ると思ったファンが多かったはずだ。
入団会見に臨んだ彼の姿は、髪は少し長ながめで、もじゃもじゃ。
ヒゲはそって幾分若返った。
バレンシア時代を思わせるその姿。そして満面の笑顔。
14年前、この地で会見をした時より少し皺が深くなった。
そのニュースはサッカー界のトップニュースとして世界を駆け巡った。
Cロナウドやメッシの最新ゴールより、宝石の様な価値のあるニュースだった。
少し驚きではあったが、それがアイマールというプレーヤーだったのだと思う。
いつだってそうだった。
主役なのだ彼は。
さながらショートケーキの上のイチゴの様に輝いていた。
ショーケースの中、どれだけ煌びやかなケーキが並んでいようと、クラシカルでシンプルなフォルムで驚くほど鮮やかに浮き上がってる様に見えるのだ。
同じ様にアイマールもピッチのどこにいてもあっという間に見つかる。
全てのクラブにおいて彼は主役だった。
クラブの王として、長い王朝を作るプレイヤーではなかったが、自ら先陣を切り敵陣に切れ込むその姿は王子の様だった。
確実にそれは一時代をクラブにもたらし、その煌めきは多くのファンが覚えているのだ。
華奢な身体に、ファンタジスタを必要としない時代への急速な移り変わりと、彼のプレーヤー人生には逆風が多かった様に思う。
一言で言えば近代化したフットボールは、アイマールを取り残そうとして時代を進めたが、それでもアイマールは戦い続けた。
一見飄々と、しかし過酷だったその戦いは、欧州トップレベルのリーグで彼以降純粋なトップ下の選手がいない事が証明している。
僕らサポーターがアイマールに見た夢、そして彼自身がプレーして見ていた夢の光景は、一緒だったのではないか。
時代に取り残されても、アイデンティティーは自分の足元とファンの目に宿る。
それを発揮する事だけ。それが全てだ。
僕らが夢描く絵画を切り取った様な美しいプレー。
彼もそれを生涯描き続けるために戦いを続けたのだ。決して怪我に負けたわけではない。
芸術性の為の実直さは、誰にも劣ることなく最後のファンタジスタとしてその名をファンの心に刻みつけている。
1996年から2001年まで所属したアルゼンチンのリーベルプレートで87試合出場22得点。10番を背負い、世界に見つけられた宝石のようなプレーでアルゼンチンの新しい時代の筆頭でもあった。
スペインへと舞台を移し、2001年から2006年まで所属したバレンシアで198試合39得点。数々の栄光と共に、黄金時代を過ごし、最も輝きを放った。
2006年から2008年まで所属したサラゴサで57試合5得点。魅惑的な攻撃力を武器に短いながらもキャリアの中で最も鮮やかなプレーもあった。
2008年から2013年まで所属したベンフィカで160試合16得点。導かれる様にポルトガルの地へと誘われ、暖かくも情熱的に最後までプレーした。
2014年のインドネシアでジョホール・ダルル・タクジムで8試合2得点。
アルゼンチン代表では52試合8得点。2度のW杯に出場した。
そして2015年、リーベル・プレートで1試合。この一試合がとても彼らしくて、数字にすら甘いロマンチシズムを感じる原因になる。
甘い魅惑の天才プレイヤーのフットボール人生は第2のスタートを切った。
U-17アルゼンチン代表監督として指導者としてのキャリアをスタートさせたのだ。
その芸術的な感覚を、次世代に伝え、夢の続きを描き続ける事になるだろう。
数々のプレイヤーが彼に影響を受けて、世界へ羽ばたいて行けば、今よりも少し芸術的なプレーが増えるかもしれない。
正直に行ってドリームチームのベストイレブンを選ぶときに一番最初には出ないだろう。
でもアイマールを中心にするチームは甘く夢があるはずだ。
何度も何度もボールに触れ、気ままながら芸術性に溢れるその姿は、ピッチ上の選手も観客席の選手も、目を奪われずにいられない。それは今でもおそらく変わらない。
彼は最後まで輝き続けていたし、その輝きは今でも僕らの目に刻み付けられている。
いまだにチカチカと眩いものが残る、あまりに鮮やかな花火は油絵の様に、今でも燃えるような色を僕らの目の奥に残すのだ。
生涯忘れる事の出来ない、心に残る選手。
パブロ・アイマールに想いを馳せて。
【Football Soundtrack theme Pablo Aimar 】
Fountains Of Wayne 'Sink to the Bottom'
Fountains Of Wayne - Sink To The Bottom [Official Video]