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Football soundtrack 1987-音楽とサッカーに想いを馳せる雑記‐

1987年生まれサッカー・音楽(ROCK)好きがサッカー・音楽・映画などについて思いを馳せる日記

【忘れたくない選手】アイマールに想いを馳せて 中篇2‐甘い魅惑の天才プレイヤーのフットボール人生‐

www.footballsoundtrack.com

 

 

1.栄光の始まり ベニテス招聘

 

2001-2002シーズンを迎えるにあたり、クラブの内部、フロント陣でバレンシアには変化が起きていた。
クラブ会長の辞任、監督の辞任(クーペルはインテルへ)、そして新監督ラファエルベニテスの招聘。
様々な変化が連鎖的に起こり、ファンにとってはどういうシーズンになるのか、なんともやきもきさせられる不透明さがあった。
が、バレンシアにはアイマールがいる。ある程度の杞憂なら、あっさりと晴らせてくれる太陽を手に入れたのたバレンシアサポーターの顔はおおむね晴れやかだった。

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ラファエル・ベニテスは2005年リヴァプールのイスタンブールの奇跡を体験し、現在では欧州トップレベルの監督として知られるが、リヴァプールへ籍を移すのは、このバレンシアでの戦いの後であった。
マドリーの下部組織からコーチのキャリアをスタートさせたベニテスは、バリャドリードやオサスナなど1部のクラブを率いるがパッとした成績を残せず、解説者などを経た後、監督業にカムバックした昨シーズンは2部のテネリフェを指揮し1部昇格を果たした。
強豪バレンシアを率いる事は、大抜擢に近い人事だったが、攻撃的なフットボールを標榜する彼のスタイルはスペインのファンに好評だった。スペイン人であるベニテスだからこそ、スペインの求めるサッカーを熟知していたのだった。
 
プレイヤーの方はというと、バレンシア黄金期と言えば彼ら、と名前が出てくるメンバーが次第に定位置を確保しつつあった。
GKカニサレスは変わらず磐石で、CBのアジャラ、ボランチのバラハ、サイドアタッカーのビセンテ、FWにカリュー、ミスタと代表クラスの若手選手を数多く揃え、魅力的な陣容になっていた。
 
前篇でも触れたが、この時期のフットボールの戦術はゲームメーカー・ファンタジスタのあり方に一つのポイントが置かれていた。
ピルロのようにボランチの位置からロープレッシャーでゲームをコントロールしたり、トッティの様に高いテクニックを活かして常に前線に近い位置をとらせつづけ決定機を演出させたり、ジダンの様にサイドから角度を変えて斜めにゴールを狙う攻撃を狙う。
まさに試行錯誤だが、やはりファンタジスタの閃きとテクニックは捨てがたく、なんとかチームに組み込み、最大限活かす工夫がどのチームにも見られていた。
 

2.アイマールの場所

ベニテスも2001-2002シーズンの開幕当初はアイマールのポジションをあらゆる場所で試した。
トップ下を置かずサイド攻撃から2人のFWで得点を奪う事を狙いとし、アイマールはサイド、又はFWの一角として起用される事が多かった。
ボールを収めてコントロール出来るテクニック、相手の嫌な所に入り込めるスピード、クロスボールやラストパスの精度、いざとなればファウルを危険な位置でもらえる。
全てサイドでもFWでも十分にプレーできる能力はアイマールにはあった。
 

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この時代のトップ下起用論は、つまるところ、トップ下の選手の器用貧乏化であり、そのテクニックはピッチのどこででも活かせられる、ならば何処にでもおける便利屋的な使われ方も多く見受けられたのだ。
その流れで新境地を開拓するプレイヤーもいる、が、アイマールはそうではなかった。
それらは全て元を辿れば、トップ下の位置でこそ燦然と輝くスキルであるのだ。
水掛け論のようなジレンマでもあるが、スペースの限られた難しい状況下でも、その存在を証明するかの様に闘い続ける。闘い続けたい。それだけの自信もあった。
思考的柔軟性も備えるベニテスにそう直訴したアイマールは、トップ下のポジションを用意される。ここに黄金時代のバレンシアは完成された。
 

3.真の強豪へ

2001-2002シーズンのバレンシアは開幕からエンジン全開。シーズン途中では11連勝を記録しチーム歴代記録を打ち立てるなど首位街道をひた走る。
マドリーやバルサとのビックマッチに破れる事もあったが、その敗戦を引き摺らない勢いを持っていて、ついには31年振りのリーガ制覇を果たしたのだ。
 
一分の隙もなく優勝を手にした訳ではなかったが、バレンシアのサッカーは十分に強くそして十二分に美しいスペインらしい制覇だった。
カニサレス、アジャラを中心の鉄壁は盤石、バラハが攻守にわたってポイントとなる働きをして、ビセンテの高速サイドアタックは他チームの脅威であり続け、ベニテスの指導もありミスタとカリューは覚醒し得点を量産した。
 
それら全てのピースを、手足の様に使いこなし、タクトを振るったのは間違いなくトップ下に君臨したアイマールだった。
ボールを持てば何かを起こしてくれるワクワク感、個人だけでなく周りを巻き込んでのその高揚感は、チームで最もアイマールがもたせてくれた。
 
2002-2003シーズン、アイマールは徹底したマークに苦しみ、連覇とCL出場を逃す事になる。CLやリーガを通して見ても被ファウル数が尋常ではなく、かなりタフなシーズンを過ごした。
裏を返せば、ファウルでなければ止められない危険な存在になったアイマール。
それを跳ね返す程のフィジカルはなかった。それでも成熟度を増したチームを巧みに操りながら、その中でも随一のアタッカーとしてそのテクニックを余すところなく披露し、ゴールへと向かう姿は、成長を確かに感じさせた。
翌シーズン、アイマールはバレンシア最高のシーズンを迎える。
 

4.バレンシアの小さなヒーロー

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2003-2004シーズン、リーガは世界最高リーグへさらに一歩前進を果たす陣容だった。
特に攻撃陣は他のどの国のリーグよりも豪華絢爛。
レアルはフィーゴ、ジダン、ロナウドに加えて、ベッカムも加入。バルセロナは王権復活の切り札にロナウジーニョを抜擢した。当然ファンの目もこの2クラブに向いており、どちらが覇権を手にするかがもっぱらの話題だった。
 
前年5位のバレンシアは、厳しい戦いになると思われていた。
もう対策をこうじられたチーム。目立った補強もない。
だがそれでも、アイマール加入以降の戦いで培ったものは着実に根付いていたのだ。
 
ロナウジーニョが中々コンデションを上げない中、レアルが首位を独走するという形になった序盤、バレンシアも安定した戦いぶりで食らいついていた。
アイマールも幾度か怪我で欠場はあったが、チームを牽引。
タフなシーズンを経てリーガへの慣れもあり、アイマールのプレーにも変化を感じたシーズンとなった。
 
テクニックはもちろん健在、むしろ20代中盤にして熟成された感もある様な雰囲気を纏う。
プレッシャーを避ける為のワンタッチ、ツータッチのプレーでも上手さがあり、チームの前進スピードを損なわない、またはゴールへの別のルートを示す。
チームとして成熟したボール回しの中で何度も何度もボールを触り、リズムを作り出していた。
チームの主役としての自覚をし、その存在感を自ら認識する事で、チームにとっての最高の形を表現する。
強弱、緩急、自分か、仲間か。その決断は、アイマールに委ねられていた。
チームの中心にいるのは、いつもサッカーが上手い奴。
古代ローマに全ての道が通じていたのは、最も優れていたから。ボールの道筋もそれに通ずる所で、そのシンプルな摂理こそベストな形なのだ。
 

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昨シーズンよりも指揮者として数段も上のレベルにいたアイマールに、各チームは手を焼いた。
 
終盤に入ってくると、魅力的な攻撃陣に偏重を起きすぎたレアルは次第にバランスを崩し出す。
確かにそのゴールショーは圧巻だったが、信じられないほどあっさりとセットプレーで追いつかれたりする脆さがあり、勝ち切れない。
多くの勝ち点を取り零す中、次第に勝ち点を詰めてきたのはバレンシアだ。
終盤に入ってもそのバランスは崩れる事なく、シーズン通して安定感のある流れを作っていた。
ロナウジーニョが異端ぶりを徐々に発揮しバルセロナにも勢いが出始めたが時すでに遅し、この年のリーガの覇権は、逃げるレアルと追うバレンシアという局面に絞られた。
 
レアルの歯車は狂ったまま、元通りにならず、シーズン最後の5試合悪夢の様な5連敗を喫する。
ついに逆転で首位に立ったバレンシアを止められるチームはもういなかった。
レアルの背中を見続けてきた優勝というよりは、自分達の闘い方と共に自答しながら、一歩ずつ進んだ結果、先頭にたっていたのだ。
 
その勢いはそのままに、UEFA CUP決勝でもマルセイユを下し、2冠を達成したバレンシア。
アイマールの加入した2001年から2004年のこのシーズンまでで、リーガ優勝2回、CL準優勝2回、UEFAカップ制覇と、クラブ史を見ても断トツに輝く栄光を勝ち取り続け、アイマールはクラブの歴史、街の歴史に名を残す存在となったのだ。
 
全てがアイマールのおかげだとは思わない。
クラシカルな司令塔ではあるが、彼の為の彼だけの為のチームだったわけではない。
だが、それでも一は全、全は一。
チームの歯車としても、チーム最大の武器としても、重大な役割で居続けた。
時代に流されながらも、その姿は不動でなくても、美しく舞う様に見えた。
バレンシアで見つけたアイマールの色は間違いなくファンの目には鮮やかに映ったはずだ。

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結果だけ見れば抜群の成功物語だ。
その内容だって、成長が見て取れる極上のストーリー。
だがこの後のアイマールは、そのキャリアに影を落とすことになる。
徐々に狂い始めた歯車は元に戻らず、遂には彼を瀬戸際まで追い詰める。
天才の苦悩。
その先にこそある更なる栄光を信じて物語は展開していく。
 
【後篇へ続く】